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Ⅲ
「皆さん、おはようございます」
朝礼の時間になり、課長からの挨拶が始まる。
「今日から新人研修が始まります。それぞれの部署の担当の方はよろしくお願いしますね。では、まず紹介から…」
隣には、まだ着慣れていない新品のスーツを着た若い男女が肩に力が入っている様子で手を前に組み、並んで真っ直ぐ俺達既存の社員を見ている。
各々に簡単な自己紹介をしている中、社内全体で一際目を引いたのが、彼だった。
「おはようございます。佐竹 八生 です。分からない事を伺ったりと、何せ初めてなのでご迷惑お掛けすると思いますが、よろしくお願いします」
黒い髪の毛をキチンとセットして、黒縁のメガネを掛けて背が高く、スラッとしているのに肩幅もある彼は挨拶をしてお辞儀をした後に、凛と立っていた。
近くにいた女子社員からひそひそとカッコイイだの連絡先知りたいとかだの話す声が聞こえてくる。
(確かに、カッコイイ…)
その後も、挨拶を続けていく新入達には目も行かずに佐竹君をじっと見つめる。ほんの一瞬、俺の勘違いかもしれないけれども彼と初めて目が合った気がする。目を少し細め、口角を横に広げて微笑む佐竹君。
ずっと胸に留まっていた静かな水溜まりの中の一滴がピチョンと突然跳ねたように、鼓動がトクンと高鳴った音がした。
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