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XIII
「佐竹なら課長のとこ行ってるぜ」
「あ…そうなんだ」
「なぁ、小野井。もしかしてさ、あいつ部署変わりたいのかな?さっきからなんか二人で話し込んでる感じだし」
(え…)
「そ、そっか…。まぁ、いいんじゃない?」
今、このタイミングで課長の元で話してるって、それは異動希望の可能性が確かに高い。嫌だと思っても、俺はただの上司。止める権限は全く無いし決めるのは本人だ。
「もう、あの時間は過ごせないのか…」
ほんの少しの幸せな30分間。
彼にとっては仕事の一つだと思うけれど、俺にはずっと続いて欲しい大事な二人での時間だった。
幸せと感じた時間は振り返るととても短くて、ホントに夢みたいだ。今、溢れる思いを救う物は何も無くてただ止めどなくつらつらと流れていく。終着点の無い、いずれ見えなくなる深い深い底へと消える。
(なんか間違ってたな…。俺)
相手に告白しなければ、自分は振られない上に傷つかないと思っていた。それを実践した事で心は傷つく事も無くなった。
でも今はまた、心が痛い。
あの時振られた頃の痛さとは違う痛みを感じる。
これはきっと後悔の痛み。
どうせ離れるなら、気持ちを相手に伝えたって良かったんだ。過去のあの日の自分は何も間違ってなかった。
あの時何も行動しないまま、今みたいに過ごしていても結局は時間が止まるように一人立ち竦んで悔やむほど痛く傷ついてたに違いないんだから。
(ホント、今ごろ気づくなんて馬鹿らし…)
自分の心の痛さを守る為に堪えたのに、結局傷ついてるのは自分自身だなんて…。
「はぁ…」
「おはようございます。小野井さん」
頭上から声が振ってきた。
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