25 / 26
ⅩⅩⅣ
開いた口が塞がらないのは、本当に驚いた時に起きる身体の仕組みなのかと実感する程、俺は口をポカンと開けていたと思う。
「お願いします」
佐竹君が一礼した後に見た目線の先はバッチリ俺だった。
(何で?部署移動の相談してたんじゃなかったっけ?昨日が最後だと思ってたのに。てかそもそも誰が移動するって言った?俺の思い過ごしなんじゃないか。いや、待て待てそういえば佐竹君に昨日のメール返してない…。俺、超感じ悪い先輩じゃん)
脳内を様々な思いが次々に巡り廻る。パンクしそうな思考の中心には彼しか居なくて、昨日までの思いを断ち切って今日を迎えた俺は一体何処へ行ってしまったのか。
「小野井さん!」
「っ…は、はぃ!」
ぐるぐると脳内で考えている間に朝礼は終了していて、佐竹君の俺を呼ぶ声で我に帰る。
しかし、出た声は驚くほど辿々しくて口に手を当てて下を向く。
「また、赤くなってる…」
小さく呟くその低音は俺の耳にしっかりと響いた。瞳だけ動かして彼を見ると、クスリと笑って俺の事を見ている。真っ直ぐ見ている。眼鏡を通して俺を。
「し、仕事始めよう。また今日からよろしく!佐竹君!」
「はい!改めてお願いします。小野井さん」
---
あの日に課長と二人で話していたのは元々佐竹君自身は営業部で無くマネジメント部希望だったらしく、空きが出来たから来ないかという内容だった。
何故彼はその話を蹴って営業部に来たのか。その理由は後々に本人から、俺は知らされる事になった。
ともだちにシェアしよう!