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第6話

 心が悲鳴をあげる。 「い…やだ…! あんただけは…、い…ッ!?」  普段は涼しい顔で取り澄ました社長らしからぬ乱暴さで唇を塞がれた。  荒々しく歯列を割り、舌が己のそれを絡めとり吸い上げられる。  ……理性がそれで一気に崩壊した。  後はもう、互いに本能のままに貪る、二匹の獣と成り果てた。  玄関は床も壁も飛び散った俺の白濁に汚れ、廊下はいろんなものが混ざった体液の筋がつき、寝室のベッドはスプリングが一部破損し、シーツは二度と使えない状態になった。 「くびを、噛んで、いいですか?」 「だ…め…! ダメぇ…ッ」 「なら、私の子を、孕んで…ください」 「や…やらぁ…」 「…もう、遅い。君の、胎は…ほら…もうすでに、私の子種でいっぱい、ですよ」 「うそ…出して…」 「でも、もっと奥…こっちが、子宮に続く、膣です」  腹側の直腸を探られ、そこの切れ目を性器の先端が強引にこじ開けながら侵入してきた。 「君の処女膜をぶち抜いて、もっと奥に注いであげます」  ロマンチストの皮を被った処女厨な変態がうっとりと笑い、なんの呵責もなくみしみしと薄い膜を破って最奥に到達した。 「ひ…ッ、痛っ…」 「君の処女がもらえて嬉しいですよ」 「あっあっ、…ああっ」 「こうやって奥まで貫いて、何度でも…注いであげます」 「ンァ…アツ…ィイ…ッ!」 「君が孕むまで、何度でも」 「…アアアッ」 「ふっ…く…ハァ…」  ギシギシとベッドを軋ませ、幾度も幾度も奥を求め、吐きだし、欲し、欲され、まぐわった。  発情期が終わるまで、ずっと、自分たちはほとんどの時を繋がって過ごした。  しかし、やがて、その狂乱も収束し、静けさとともに理性が舞い戻ってきた。  何事にも終わりは訪れる。  疲れ果ててドロドロのベッドで伸びている俺の汗に濡れた髪を梳きながら、社長は沈痛に呟いた。 「好きなんです。君が好きだ。……どうすれば、この気持ちが届くのだろう。どうすれば君に認めてもらえるのか、私にはわからない」  俺は聞こえないふりをした。 「君だって――私のことが好きなはずなのに」 「違う」  しかし、つい言い返してしまって聞こえないふり作戦は失敗した。 「違いませんよ」 「違います」  顔をあげてきっぱりと否定すると、上司の顔が悲しげに歪んだ。 「違いません。私に告白されて発情したんですから。――君は、私が好きなんです」  必死な色をその瞳に浮かばせ、俺を懐柔しようとする夢見がちな上司に、俺は泣き笑いを浮かべた。  ……ほんとーに、どうしようもない人だ。  俺がそんな甘言に騙されると思うのか。  それでも、  騙されるばかりだったこの人が、俺に縋って必死で騙そうとする姿に、俺の心は簡単に傾いでしまった。  そもそも、俺はこの人の頼みごとに弱いし、俺はこの人以上にチョロい人間なのだった。  この人には制服に鼻水をつけてダメにしてしまった借りもある。  ……はじめから勝ち目などなかったのだ。ただ、他ばっかり見ているこの人を認めたくなくて、ひたすら足掻いた十年。  俺にとって、あの出会いこそが運命だった。  それでも、……もうしばらくは、俺を頑張って口説いてもらおうと思う。  十年とは言わないから。もう少しだけ。  運命に踊らされ、浮気ばかりを繰り返してきた天然印の俺の番。 (ねぇ、あんたが俺の運命の番だって、知らなかっただろ?)  ――だから、それをバラすのは、もう少し先までとっておこうと思う。

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