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2.変わらない距離(12)
――心と身体は別だから。
確かに、何度口にしたか知れない言葉だった。実際その言葉をたてに、遊んでいたことも否定できない。
だけど今思えば、それは本心と言うより、寧ろ自分への言い訳に過ぎなかった気がする。
そう言葉にすることで、気持ちがなくてもやることはやれるんだってことを正当化して、名木先生に対して一方的に抱いていた後ろめたさを誤魔化そうとしていたのだ。
そのうちに名木先生のことを忘れられれば、という気持ちもなかったとは言えないけれど。
(ほんと馬鹿だな、俺も)
俺は返す言葉もなく視線を落とした。
「……まぁでも」
すると何も言えなくなった俺に気をよくしたのか、加治が笑み混じりに口を開き、再びコーヒーを数口喉奥に流し込んでから、
「今はしてねぇよな、そういうの」
次にはそう言い切って、飲みかけの缶を俺に差し戻してきた。その眼差しは、どこか意味ありげに眇められていた。
俺は呼気だけで少し笑った。
「よく知ってるな」
皮肉めかして言うと、加治も同じように破顔した。
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