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2.変わらない距離(11)
昨日の今日では上手く気持ちも切り替えられず、翌日の化学も俺はサボった。
途中購入した缶コーヒーを手に、向かった先は体育館裏。できれば独りがいいと思っていたから、加治にもサボることは言わなかった。
なのに実際建物の裏手に回ってみれば、
「あれ、仲矢。何だよ、お前またサボリ?」
「……お前こそなんで」
結局その加治と鉢合わせと言う結果になっている。
聞けば加治は加治で授業をサボり、この場所を選んだらしい。
「お前最近ホントよくサボるよな」
「人のこと言えねぇだろ」
「まぁそうだけど」
溜息混じりに言い返すと、加治は悪びれず肩を竦めた。
体育館裏には、普段あまり使われない大掛かりな用具が置かれていて、それだけに死角も多い。常に日陰になる段差は座って過ごすにちょうどいいし、一つだけある体育用具室も、鍵が壊れかけているため実質出入り自由という状態だった。
ちなみに加治が座っていたのは一番奥の段差の部分で、俺は仕方なくその手前に腰を下ろす。
「つーかお前、またコーヒー? たまには炭酸とか飲めよ。俺らまだ高校生よ」
俺が持っていた缶を見て、加治がからかうようにその手元を指差してくる。
そのくせ俺がプルタブを引き上げると、「ちょっとくれ」とばかりに抜け抜けと手を出してきた。
「欲しいなら文句言うな」
「あ、ゴメン嘘。つか、マジ喉渇いてて」
「だったら余計黙ってろよ」
俺は一口だけ呷ったそれを、半ば呆れながらも差し出してやった。加治は「スミマセン」と苦笑しながら、受け取ったそれを早速口に運んだ。
「てか、お前こそホント誰かと待ち合わせとかしてたりしねぇの? ほら、例のマネージャーとか」
そう言えば、ととぼけたふりして切り出すと、加治は口に含んでいたコーヒーを噴き出しかけた。
「ちょ、お前缶の中に戻すなよ」
俺は反射的に身を遠ざけ、堪え笑いに肩を揺らした。加治はゲホゲホと咳き込みながら、焦ったように口元を拭う。
「断ったっつっただろ。……そりゃまぁ、ぶっちゃけ一回くらいヤっといても良かったかなーとは思ってたけど」
「うわ、サイテーだなお前」
「よく言うぜ。仲矢(お前)だってちょっと前まで遊びまくってたくせに。人が部活に精を出してるときにさぁ」
「人聞きの悪ぃこと言うなよ。それにお前のは単なる野球バカじゃねーか」
「バカとか失礼なこと言うんじゃねーよ。つっても、それなりに遊んでたことは確かだろ。お前よく言ってたじゃん、〝心と体は別物だ〟とかって」
「そ……れは――」
加治のことをいじっていたつもりが、先に言葉に詰まったのは俺の方だった。
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