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番外編.例題その1(1)
「名木先生――…。それ、どうしても今やんなきゃなんないの?」
「……別に待っていろと言った覚えは無いが」
後は寝るだけ――と言う時間になり、ベッドに引っ張り込んだまでは良かったが、相変わらず先生は学校の書類(仕事)から意識を離そうとしなかった。
俺を一瞥することもなく、目線は手の中の紙束に釘付けで、布団の上だというのに上体を起こした姿勢を一切崩さない。
最初は俺もそれに付き合って並んで座っていたけれど、
「だからそう言う話じゃなくてですね……」
結局間が持たなくなってひとり先に横になった。
あまりに急な話だったからか、日曜日 のバイトを休みにするには、土曜日 のスタッフに代わって貰うしか方法がなかった。
だから俺はそれに沿って本日夕方までバイトに入り、その足で真っ直ぐ先生の家に来た。
できることなら風邪だのなんだの言って無理矢理にでも休んでしまいたかったが、流石にそこまで無責任なことは出来なくて――。
というか、ぶっちゃけもしそんなことをして、それがうっかり先生にバレちゃったら……、とか考えるとそれもなかなかできなくて。
でも、本音ではそれくらい、俺としては二人きりの時間が欲しかったんだってこと、言えば先生は解かってくれるだろうか。
――いや。きっとそれとこれとは話が別だって言われるだけだ。
だけど本当に。本当にこんな風に二人だけでゆっくりできる日は久々だったのだ。それも二日連続で得られるなんて、それこそ稀に見る貴重な機会。
今までは、どんなに二人きりになったって、メインになるのはどうしても受験勉強で、何をしようにも「まずは志望校に受かること」と言われてひたすら我慢の連続だった。
時間にしてもたかだか数時間がほとんどだったし、唯一恋人らしいことができる時間と言えば、先生が俺を家まで送ってくれる際の車の中とか、その程度。
正直、先生が何の為に違う学校に在籍することを選んだのだか、本気で解からなくなることもあった。
かと言って、先生がそう言う人だって知った上で好きになったのは俺の方で。
実際それを目の当たりにしても、やっぱり嫌いになんてなれなくて。
だからもう、その点についてはどうしようもないと、ある意味諦めてはいるんだけど――。
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