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第9話

目を開けると、隣で寝そべりながら桜雅がタバコを燻らせていた。透羽は体を起こし、そのタバコを奪うと一口吸い込んだ。 「雨、止まないな」 桜雅がベランダの外に目を向けている。 「朝比奈……」 桜雅が顔をこちらに向けた。 「昨日女とヤッたって……」 透羽は膝を抱えると顔を膝に埋める。 窓を叩きつける雨音が耳障りで、頭に響いた。 「あ?嘘に決まってんだろ。妬いたのかよ、センセー」 少し笑いを含んだ声が聞こえると、その言葉に透羽は安堵していた。 「ああ、妬いたよ」 顔を半分だけ桜雅に向けた。 桜雅に持っていたタバコを取り上げられ、それを一口吸うとベットサイドにある灰皿にタバコを押し付けた。 「じゃあ、この前の視聴覚室は?」 「ああ……まぁ、あれは告られた」 「そうか」 「何泣きそうな顔してんだよ」 「泣きそうな顔してるか?」 「してる」 桜雅はそう言って子供をあやすように髪をクシャリとされ、撫でられた。 「子供扱いかよ」 思わず苦笑いを浮かべた。 「断ったから、妬くなよ」 そう言って桜雅は鼻で笑った。上からの発言でムッとしたが、断ったと聞いて酷く安堵している自分がいた。 「妬いてないし」 熱くなった顔を隠すように膝に顔を埋めた。 「覚悟できてんのか?」 桜雅はそう言って上半身を起こした。 「オレは生徒であんたは教師だ。その上、オレは極道の息子だ」 「そんな立場よりも、男同志だってわかってるか?」 桜雅は面食らったように目を丸くし、 「そういやそうだな……」 そう言って、天井に目を向けた。 「あんまり、そこは考えてなかった」 その言葉に透羽は不安になっていたのがバカらしく感じ、 「変な奴……」 透羽はクスリと笑った。 「その顔やめろ」 桜雅の大きな掌が近付いてくると、目元を隠された。 そのまま桜雅に組み敷かれると、 「覚悟しろよ」 桜雅に深く口付けされると、逞しい桜雅の背中に手を回した。そのキスは桜雅らしくない、優しいキスだった。 「俺は朝比奈が好きなんだと思う」 そう言って桜雅の顔に頬ずりをした。 「知ってる」 顔を上げた桜雅は透羽が今まで見た事のない、年相応の子供のような笑みを浮かべていた。 その顔を見た瞬間、透羽は涙が出そうになり、それを誤魔化すように桜雅を強く抱きしめた。 桜雅の肩越し見えた空は雨が上がり、夕焼けの赤い色が目の端に見えた。 今は余計な色は見たくはない、そう思った透羽はそっと目を閉じ、桜雅の唇を味わった。

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