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scene.1 消された記憶

『……これはどういう事ですか。…我が家系に忌み子が誕生するとは……。』 『……主。申し訳ありません』 『しかしながら、こればかりは私たちも予測が出来る事態ではないので……。』 『そんな事はありません。これはお前たち夫婦の過ちですよ。…生まれた子供が忌み子で、しかもそれが藤原の家督を継ぐべき男系とは、何という不遇…これでは家の面子は立ちません。今後は長男だけを藤原の家に残し、次男はこのまま無条件で児童養護施設に収容して頂きます。いいですね』 『……分かりました』 『これで藤原の家に何かあったら、それは全てお前たちの責任ですからね。…それだけは頭に置いておきなさい』 『……承知致しました。主』 『……ごめんね…。不甲斐無い母親でごめんね……。亜咲、飛鳥…』 『ほら、早くしなさい。…行きますよ』 ――「……駄目だ…!そんな事しちゃ駄目だ……!!」―― 「……っ!!」 「……どうした、亜咲?」 「……航太…?…ああ、そうか。夢か……。」 「…悪い夢でも見た?…亜咲、身体中汗だらけじゃん…。」 「いや、悪い夢って言うか…。多分子供の頃の記憶だと思うんだけど…何だろ、なんか変な感じだった…。」 「…変な感じ?」 「うん…。俺んち、妹は居るけど…弟なんて居ないはずなのに…。」 「…そっか。何だろうね?」 「さあ…?うん。まあ、いいや。ここで悩んでたってしょうがない」 「そのうち分かるんじゃないの?」 「それもどうかなぁ…」 「…そんな事より。今日、認定試験の結果が出るんだろ?…これで認定が通ったら、亜咲もいよいよ一人前の理美容師だね?」 「そうだな。…これで俺も、やっとお前との約束が果たせる。…長いこと待たせちゃってごめんな、航太」 「いいんだよ、そんな事は。そしたら今度は、オレがお前との約束を果たす番だね。……ちゃんと今の高専卒業するから、そしたら一緒にこのアパートで暮らそう?」 「ああ、そうだぞ。…お前最近ホントにサボり過ぎ!…このままで単位大丈夫なのか」 「んー…今は何とかギリギリ守ってるけど…でもそれって、オレだけのせいじゃないぞ?亜咲がしょっちゅう倒れるから、その度にオレが親父に呼び出されるんだからな?」 「…俺に責任転嫁すんな!俺だって分かんねーんだ、こればかりは」    そうなのである。最近の俺は、あまり体調が良いとは言えない。 詳しい原因は分からないが、以前からたびたび起きていた突発的な発作のようなものの発生頻度が、ここ最近になって高くなってきていた。  認定試験が近いというのもあり、そんな自分の体調と相談しながら最終的な調整を行ってきてはいたが、あまりにも発生頻度が高くなってきたので、これまでのように仕事が出来なくなってしまい、現在は一時的に休職という形で対応をさせてもらっている。  だがしかし、今回の認定試験を受けない事には今後の仕事への展望も見えないので、自分の出来る最低限の範囲で行動しながら、認定試験を受けた。  その結果が出るのが今日なので、後ほど職場のサロンに顔を出す予定だ。    ――だがそんな重要な日に限って、あんな不思議な夢を見るなんて…いったい何の意味があるんだろうか。…そして俺の知らない名前、『飛鳥』とは誰の事なんだ…?  そんな事を考えながら、俺はゆっくりとベッドから起き上がった。  

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