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scene.15 新しい『未来』をめざして【硝子の蛹編・最終章】

「こんばんは、お世話になります。…マイナ・トリニティの与那覇です」 「…あら、利苑くん。それに飛鳥くんも。いらっしゃい」 「……こんばんは」 「亜咲くんはいらっしゃいますか?……以前、彼にモデルをお願いした時の写真集が完成したのでお届けに上がったんですが…。」 「あー、ごめんなさい。…彼には今、うちの本店の方に行ってもらってるんです」 「本店?…芝崎社長の店舗の方ですか?」 「ええ、そうなんですよ。今日はちょっと人手が足りなくて、急遽出向して頂くことになりまして。……もうすぐ戻ってくるとは思うんですけど、お時間さえ良かったらこちらでお待ちになられますか?」 「そうですか。…では、お言葉に甘えまして」 「すみません。こんな殺風景な店舗でお待たせする事になっちゃいまして」 「いえ、それは別に構いませんが。…亜咲くんは、普段はこちらの店舗でお仕事をされているんですね。彼はどんな感じですか?」 「とても真面目ですよ。本格的に仕事を始めてからはまだ半年くらいですけど、彼自身の元々の手先の器用さもあってか、もう既に固定客も付いてきていますしね。私たちサロンのの大切な仲間ですよ」 「そうなんですね。……それは良かった」 「だけど利苑くんも元気そうで何よりですよ」 「…利苑さん、どういう事…?」 「…あ、それはね。…僕はかつて、ここのサロンの社長さんの元で修業してた事があるんだよ」 「……へえ、そうなんだ……」 「実際に会ったら、きっと君もここの社長さんの人の良さが分かるよ」 「……飛鳥くん、だっけ?見れば見るほどよく似てるわ、亜咲くんに。…あの風貌でもう少し大人しい感じなら、彼もまあまあ綺麗なお兄ちゃんよね?」 「……乾さん、あの……。」 「ま、それは冗談だけどねー」 「みわ子さんは相変わらずですねぇ。…この子はあまりそういう話に耐性の無い子なんですから、お手柔らかにお願いしますよ?」 「……おい。亜咲戻ってきたぞ」 「……航太。何であんたはいつもいつも黙って来るのよ。店に寄る時は必ず連絡しなさいってあれほど……」 「……戻りましたー。…あれ、利苑さん。それに飛鳥も。…航太まで揃って、みんなどうしたんですか?」  本店での仕事を終え、俺は家に帰る前に今日の報告をしようと2号店に寄ってみると、そこにはマイナ・トリニティの利苑さんと飛鳥、そして学校帰りの航太が待っていた。 これだけの人数が店舗に揃っているのを見るのはとても珍しくて、俺は一体何が起きたのかと疑いそうになった。 「こんばんは、亜咲くん。……この前、君と飛鳥の二人で被写体になってもらったあの写真集の完成版が届いたので、君に差し上げようかと」 「…あ、あれですか。…どうでした?…上手く撮れてましたかね?」 「いえ、僕もまだ作品の全容は見ていないんですよ。なので、どんな感じになっているのかもまだ分からなくて。出来れば君達と一緒に確認したいなと思ってたので」 「あ、そうなんですね。……楽しみ~」 「ちなみにこちらが完成した写真集です。どうぞ」  そう言って、利苑さんが俺にその写真集を手渡してくれた。 その写真集には『Heavenly Garden~天庭の青い鳥~』というタイトルが付けられており、そのカバー装丁写真として『青い鳥』の主人公であるチルチルとミチルを意識して航太が制作したという衣装と、その衣装を身に纏い、まるでアルフォンス・ミュシャの西洋絵画のような雰囲気を著した俺と飛鳥のツーショット写真が使用されていた。 「こうして見ると二人とも全然雰囲気違うわね~。すごく綺麗」 「…へえ、こんな感じになったんだ。…あー、この写真とかいい感じ。ほら、見てみな」 「…うん、確かに。あの時、一瞬で亜咲がコンセプトに機転を利かせたのが良かったんだな。……亜咲と飛鳥さん、どっちもそれぞれの魅力がちゃんと活かされてるし」 「あら、そうなの?」 「ああ。あまりにも飛鳥さんが困ってたから、もういっそチルチルとミチルの性別設定を変えちゃえ!みたいな事を亜咲が急に言いだしたんだよ」 「あははは!……そういう所、やっぱり亜咲くんらしいわ。それで飛鳥くんも納得したんだ」 「……いえ、そういう事ではないんですが……。」 「でも結果的に全てが丸く収まってるからそれで良くね?」 「……はあ……。」 「……飛鳥くん。…突然現れた変なお兄ちゃんにちょっと腰引いちゃってない?」 「……そういうのは別に慣れてるので」 「……誰が変なお兄ちゃんですか」 「……むしろあんたの方が圧強すぎて引いてるぞ。…ったく、若くて綺麗な男とあらば隙あらず突っ込むそのクセ、いい加減にやめろ」 「いいじゃな~い。どうせあたしにはもう跡継ぎ保障なんて無いんだから。……それとも航太、あなた今から考え直して女の子とちゃんと結婚してくれるつもりある?」 「……オレの性嗜好知ってるくせに。…あのな、おふくろ」 「もう、どうして元旦那とその息子が同じ道に行っちゃったのよ~」 「……みわ子さんもいろいろ大変なんですね……。」 「いや、そうでもないかな?……そういえば利苑くん。あなた、前に亜咲くんの事ひそかに狙ってたって聞いたけど、本当?」 「……はあ!?……俺、それ初耳なんですけどっ!?」 「…そのつもりだったんですけどねぇ……ご覧の通り、彼からものすごい勢いで睨まれちゃいましたので……。」  そんな事を言いながら、利苑さんは横に立っている飛鳥の視線を見ながらその手をひらひらとさせて『降参です』のリアクションを見せる。 その様子から察するに、どうやら利苑さんの言っている事に間違いはなかったようで、俺の背筋にすうっと冷たいものが走った。 「……利苑さん……。」 「……何ですか?」 「……まさかと思うけど……そういう事、なんですか……?」 「……それはご想像にお任せしますよ」 「……なんだろ、この負のスパイラルが否めない感……。」  ――どうやら俺と航太の周りには、似たような存在が集まってしまうようだ……。 そんな事を思いながら、俺は『青い鳥』に導かれるように、新しい『未来』をめざして、幸せさがしを続けている――。 『ヘヴンリー・ガーデン~硝子の蛹編~』 ―fin―   

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