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嫌な予感

「やっ、あだ、む。こんなところ、でっ」  放課後の保健室だった。保健医の鍋山という先生に、外出するので部活動中の生徒が怪我などで来たら世話をしてほしいと頼まれ、一人保健室にいたのだが。  ふらりと現れたアダムが保健室の鍵をかけ、カーテンを締め切ると、鈴の体を愛撫しながら脱がしにかかってきた。 「やっ、ぁっ……」  上半身が裸になると、背中や胸、肩や臍に至るまで全てにキスを施しながら、優しく撫で回されてびくびくと体がしなった。  その時点で既に下肢が反応し始めていて、触れてほしいとせがむように膨らみ続けている。だが、アダムはそれに気付いているだろうに、敢えて下半身に触れてこようとしない。 「あっ、……くっ……」  乳首に口付けられて舌で転がされると、腰が震えるほど感じてしまってへたり込みかけたが、そこをアダムの腕に抱き留められてしつこく舐め回されてしまう。  これだけでも十分に気持ちがいいことに変わりはないのだが、どうしても下半身に触れてほしくて自然と足を擦り合わせていた。 「くっ、……ぅ、あ、だむ……おねがっ」  とうとう耐えられなくなって強請ると、察してくれたアダムはニヤリと笑いながら股間に手を伸ばしてきて。  触れるか触れないか、という時に邪魔をするように携帯が着信音を響かせた。 「ごめん」  アダムは謝りながら、スーツのポケットから海のような色をした携帯を取り出して相手を確認すると、舌打ちしながら耳に当てる。いつになく表情が険しい。 「アリシア、もう連絡はしないようにと言ったじゃないか。一体何の用……え?何だって?父さんが?」  英語で早口にそんなことを捲し立てると、次第に焦ったような様子になり、青ざめた顔をして通話を終えた。 「アダム、どうしたんだ。顔色が悪い」  脱ぎ捨てていた上着を掻き寄せながら、心配になってアダムに尋ねると。 「僕の父さんが銃で撃たれたって。銀行に勤めているんだけど、強盗に遭ったらしくて」 「えっ、そんな……」 「アリシアは僕の幼馴染で、婚約を破棄したばかりなんだけど、パニックになってて状況がよく分からなかった。急いで相談して一時的に帰国の準備をしないと」 「ああ、早く帰ってやれ。急げ、間に合わなくなる前に」 「うん……レイ」  アダムはこんな時だというのに、いや、こんな時だからだろうか。鈴の体を震える腕で引き寄せると、額に口付けて囁いた。 「レイ、愛してる。父さんの無事を確認したら必ず帰ってくるから」  そして、そのまま鈴の体をぱっと離すと、保健室から足早に出て行った。  後に残された鈴は、アダムの父親の無事を祈りながらも、焦っていたアダムが口走った言葉を思い出して胸が傷んだ。「アリシアは幼馴染で、婚約を破棄したばかりなんだけど」と。  こんな時に考えるべきではないと思いつつも、アダムは異国の地に帰ってそのままアリシアという女性とよりを戻し、二度と帰って来ないのではないかという悪い予感ばかりが胸を騒がせていた。

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