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終
梅雨入りして、雨が降ったり止んだりするどんよりした天気だ。
いまにも振りだしそうな空に近い学校の屋上に、高山兄弟はいた。
透が昼休みに暁を呼び出したのだ。
「こんな辛気くさい日に呼び出して、なに?」
と、不機嫌さを隠さない暁だ。
「おまえとはもう寝ない」
「はぁ? なに言っての、お兄ちゃん」
暁のきれいな顔がゆがんだ。
「そんなこと言うために、わざわざ屋上に呼び出したんだ? てっきりセックスのお誘いだと思ったから、来たんだけど。家じゃあダメなの?」
透の腕をつかんだ。
透はそれを振りぼどいた。
「透?」
「もうオレにさわるな。おまえには千明がいるだろう? 千明だけに目を向けろよ。よそ見なんかするなよっ」
「なに言ってんのか、わかんないんだけど」
「おまえら二人は好きあってんだから、ちゃんと付き合え」
暁がため息をついた。
「勘違いだよ、それ。千明はあんたが好きなんだよ」
「違うっ! 暁だよ」
「……千明も報われないな」
「も、って?」
暁が困ったように小さく笑うと、
「おれもあんたが好きなんだよ」
と、言われた。
透は首を横に振った。
「……そ、それは兄弟だからだよ、暁」
「違う。兄としてじゃなくて、恋愛相手としてみてる」
「……だめだ」
「好きだ……おれを受け入れて、透」
透は泣きながら、首を横に何度も振った。
「ムリだ……出来ない。母さんを…泣かせたくない」
暁が透をだきしめた。
透は突き飛ばしたいのに、
それが出来なかった。
「母ちゃんには秘密だ。死ぬまで隠し通すよ。……とおるくんを悲しめたくないから」
透は暁の顔が涙でかすんで見えない。
暁が透の目元の涙をぬぐった。
「好きだ。とおるくんが好き。誰にも渡さない。お兄ちゃんだけど、恋人にもなって下さい」
「……暁ぁ」
暁が透の額に、自分の額をつけてきた。
近すぎて、お互いの表情がわからない。
「とおるくん、返事は?」
「いま……?」
「あぁ……いつまでも待つけど」
「ほんとに?」
形のよい唇に、透が口付けた。
大きくなってからは、
透から暁にキスしたのは初めてだった。
END
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