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玖
透の左の眦の傷は5才の時に出来たものだった。
その日は、高山兄弟の父親は俳優の宮崎 連 が、友人のカメラマンの唐崎 圭介 と仕事の打ち合わせの為に、カフェに兄弟を連れてきていた。
カフェに着く前に通った近くの公園に、
「行きたいと」と、珍しく主張した暁を透が手をひいて訪れたのだ。
そのすぐあとに、大人二人が到着した。
その時には、顔から血を流しながら大人の男の足にしがみつく透と、男の腕の中には泣き叫ぶ暁がいたのだ。
その場で取り押さえられた犯人は、政治家の子供だったこともあり、白昼の幼児誘拐未遂事件として、しばらくは週刊誌を賑やかせたのだった。
肌に傷が残ったのは透だが、心に傷を作ったのは家族全員だった。
目立つ兄弟を子供だけにさせたという事実が、夫婦仲を悪化させた。
家に帰らなくなった父親が浮気して、愛想をつかした母親が離婚を決意したのだった。
透がケガさえしなければ、家庭崩壊は免れたかもしれなかった。
父親がいなくて平気な子供なんていない。
母親を裏切った父親を許せないから、父親とは会わないと決めていた。
透は元凶が自分だって思っていたから、一番許せなかったのは自分自身だった。
幼い弟から父親を奪ったのが透だった。
さみしい思いをさせたくなくて、いつも透が暁を守っていくと決めていた。
そんなのはただの驕りしかなくて。
結局、自分の世界が楽しくてなって、暁を鬱陶しがってしまっていた。
自分のせいで、しなくていいはずだった辛い思いも悲しい思いもさせてしまった。
その報いが今の現状なら、受け入れなければならないのかも知れなかった。
(でも、
オレにも譲れない矜持があるんだよ、暁)
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