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第1話

9時に始業のチャイムが聞こえると朝礼が始まる。 連絡事項の確認などが主な内容だ。 僕は 事代堂 志摩(ことしろどう しま)24歳。 この財前ACコーポレーションで営業企画管理部に所属する入社三年目。 ようやく仕事にも慣れ、毎日があわただしく過ぎていく。 そのせいか愛する恋人とイチャイチャする時間がとれずモチベーションもだだ下がり、やる気が空回りしてきた。 そろそろデートに誘いたい…。 (今日はA社から来客があって…) 自分の予定をホワイトボードに書き込む。 「志摩、悪いけど分析の柴にコレ持っていって」 僕に声を掛けてきたのは今年30歳、課長補佐にあたる柿崎さん。 面倒見が良くて、いつもいろいろ面倒を見てもらっている。 「了解です」 書類を受け取り、5Fから3Fへ急いだ。 「おはようございます!痛っっ!!」 勢いのまま入室しようとして開ききらない自動扉にぶつかった。 「志摩ちゃーん、朝っぱらから笑わせないでよ」 白衣を着たイケメンが出迎えてくれる。 田中さんはここの室長をしている。 50歳位でスポーツマン、スキーが得意らしい。 「あー、すんません。先輩に書類持ってきました」 「柴田ね。今奥で前処理やってるから行くならこれ着ていって」 ハンガーに掛けてある白衣を僕に向かって投げてきた。 「あざーっす」 ジャケットを掛けて白衣に袖を通し、僕は奥の部屋のドアを開けた。 『こんなところで何をしているんだ? 』 絶対にそう言われるからこっそり覗き見る。 『あ~カッケ~』 部屋の奥に白衣を着た細身の男がパソコンに向かっている。眼鏡とマスクをしているが長めの前髪でさえ涼しげな目元は隠しきれない。 彼は柴田真幸25歳。僕の高校~大学の先輩で、恋人だ。この会社で様々な物質の分析と研究をしている。 細い指が軽やかにキーボードを叩く。 「ふう」 吐息さえ美しいと思う。 僕はこの美しい恋人にみとれ、預かってきた書類をばらまいた。 「あっ!」 「志摩!お前か!」 「先輩、ごめんなさい!」 先輩が近寄ってきて隣にしゃがみこんだ。慌てて書類を拾う僕の指と先輩の指が絡む。 「あっ」 指が触っただけで頬を染める先輩…可愛い…。 顔を寄せ唇を近づける…が、両手で押し返された。 チッ、ガードが硬い。 「おまっ!会社で何するんだ!」 「してないし!ちゅー位いいじゃないですか!」 「バカ!声が大きい。誰が見てるかわからないだろ」 ぐすん。 「ごめんなさい。柿崎さんのお使いで来ました」 「"柴"に持って行けって?俺は犬か!」 「まあまあ。じゃあ渡したんで帰ります」 よっこいしょと立ち上がり、ドアノブに手をかけた。 「志摩、今日定時に上がれる?」 先輩からのお誘い!? 「はい、何がなんでも!」 先輩の一言で僕のやる気は久々にマックスになった。

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