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第2話
「はあああ…」
こんなところで…何してるんだか。
順調に業務を進めていたはずなのに…。
会議室の時計を見ながら、大きなため息を落とした。
午後イチで会う予定の来客が三時間程遅れ、未だに会議室に缶詰めになっているのだ。
(あ~もう、早く終われ~!)
とにかく必死で祈った。
結局終業時間を30分過ぎた18時に会議は終わり、僕は急いで先輩にラインを送った。
『今終わりました!直ぐに行きます!』
そして、慌てながら6Fのロッカーへ行き、小さな袋を鞄に忍ばせた。
篠崎課長には「急用があるので失礼します」と一方的に言い、課長の返事を聞く前に退勤した。
(来週突っ込まれるな…)
1Fの玄関を出たところでスマホプランが震え、先輩から返事がきた。
『遅い!罰としてツマミを買ってこい』
ハイハイ。
『先輩の好きな鶏屋の焼き鳥を買ってから向かいます』
ぽちっ、そう返信し、走って飲み屋街に向かった。
退勤して30分後、ピンポーン、と他人行儀に呼び鈴を押した。
ジョギング程度に走ってきたのでまだ息が整わない。
周りを見回すと凝ったデザインの表札やライトが付いている。先輩は給料に見合ったおしゃれなマンションに住んでいた。いつ来ても場違い…。
ガチャ、と扉が開く。
「ん」
と手が出てきた。
「はい」
鶏屋の焼き鳥を差し出す。
「入れよ」
良かった、入室の許可がおりた。
僕はウキウキと先輩の部屋に上がりこんだ。
「汗臭いな、シャワー浴びてこい」
「えー!せっかく会えたのに」
「早く行け」
鬼、悪魔と呟きながら急いで汗を流した。
「ほら、お疲れ」
風呂を出ると先輩は僕に缶ビールを差し出した。
タオルで頭を拭きながらゴキュゴキュとと勢いよく喉に流し込んだ。くはー!胃にしみる!
「焼き鳥旨いな」
お、先輩機嫌がいい。
かれこれ、ひい、ふう、三週間プライベートで会ってなかったから久しぶりの先輩だ。
嬉しくて頬がゆるむ。
「今日会えて嬉しいっすよ~。会議が終わらなくて気が気じゃなかった~」
隣に座る先輩の肩にもたれ掛かる。
「ああ、うざい」
押し返されちゃったよ。
頭で先輩をぐりぐりする。
また押し返された。
ふはは、嬉しいからこんどは先輩の顔にすりすりとすり寄った。
「ちょっと…重いよ」
いけない、先輩小柄だから無理させちゃう。
「ゴメンね」
あやまると先輩の手が僕の頭を無言でくしゃっと撫でる。
(あー、きもちいー)
いい気分になってきた。調子に乗って先輩を抱き締めつつフローリングの床にゴロンと寝転んだ。
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