78 / 115
SS-4-6『温泉に行こう』
朝、隣に先輩の姿は無く…でも、よかった。
携帯に返信は入っていた。
「帰らなくてゴメン。今日は直接出勤する…か」
読み上げて、さらに落ち込む。
もう!こんな気分で働けないよ!!
…と思いつつもワイシャツに袖を通す。
「先輩に…替えのシャツ持っていこうかな」
必要ないかもしれないけど、一応、ね。
自分が求められているのか、というより先輩に何かをしてあげたい。
ちょっと早い時間に出勤し、先輩が働く三階へ。
明かりがついているから先輩か田中さんが居るのだろう。
「おはようございます」
扉を開けて中に入ったが返事は無い。
「奥かな」
前処理室の扉の小窓から奥を伺うと、先輩と田中さんがいた。
昨日の事もありちょっと気まづい僕はドアを少しだけ開き、二人の話を盗み聞きした。
「…ウチの親と行くんです」
「へ〜ようやく親子水入らずになるわけだ」
「これでやっとスッキリする」
二人の会話は僕にとって聞きたくなかった話だった。
先輩…僕を置いてご両親のいるアメリカに行っちゃうんだ…。
もう、どうしたらいい?
先輩に持ってきた着替えのシャツにメモを付けて机に置き、僕はよろよろと自動扉を出た。
階段を歩いて登るが、途中でしゃがみ込む…。
…だって、涙で段差が見えない…。
そろそろ出勤者が通る。
人気の無い所で気持ちを落ち着かせないと…。
シャツの袖で涙を拭い、また階段を登り始めた。
ともだちにシェアしよう!