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第1話 『居場所』

 俺は、俺みたいなヤツに『居場所』を提供したくて、この会社を設立した。     「相談アプリ『ステップアップ』、登録者数2000万人を突破しましたー!」  俺の隣から、遠くまで届く伸びやかな声が社内に響き渡ると、その声に反応してわあっと歓声と拍手が反響する。最初は2人で始めたこの会社も創立3年目でスタッフは100名を超えた。仕切りのない白を基調としたオフィスなので、笑顔で溢れているみんなの顔が見渡せる。   「やったな。」  先程とは違う、俺にしか届かないような小さな声が隣から聞こえた。俺たちを取り囲むように立っているみんなと同じように拍手をしている隣の奴を確認すると、瞳が見えないぐらいの満面の笑みで俺を見て、拳を俺の前に突き出していた。  大学の頃から変わらないその笑顔を眩しく感じ、胸の中を疼く感情が溢れてきそうでも、決して顔には出さずに、俺は相手の拳に自分の拳を合わせる。 「次は3000万だ。」  俺の言葉を聞き、瞳の見えなかった目が、本来の大きな2重に戻り、強い眼差しを俺に向ける。 「だな。これからもよろしく栗原(くりはら)。」    "これからもよろしく"    ただの仕事のパートナーとして言っていることはわかっている。俺もそのつもりだ。勝手に高鳴る心臓をいつものように無視をして、しっかりと相手の顔を見つめる。   「ああ。よろしくな桐ヶ崎(きりがさき)。」 仕事のパートナーとして。これからもずっと。大切な『居場所』を守っていくために、俺は今日も働く。    

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