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「ヘイ、そこの東洋人(チャイニーズ)。今一人? 俺たちとちょっと遊ばねえか」 フェンスに背を預けていると、急に大きな壁が目の前に立ち塞がったように思い、慎也(しんや)は顔を上げた。 背の高い、まだ若そうな男たちだった。 何歳も離れたようにみえるが、もしかしたら案外自分と年は変わらないかもしれない。アジア人と欧米人の見た目を比べるには、顔の骨格から体格まで基準が違いすぎる。 地毛であろうブロンド(ヘアー)は、慎也から見れば誰もの髪も輝いてみえた。 慎也の顔を見ると、男の一人がひゅう、と面白そうに口笛を鳴らした。 「こいつぁいいな、上玉だ。俺たち今夜は運がいいらしいぜ」 「そうだな。オイ、ボウヤ、名前なんて言うんだ?」 「…………」 彼らの間に沈黙が降りた。 聞いた男はさほど気にした風もなく、肩をすくめて言った。 「ま、いいさ。名前なんて後でいつでも聞ける。場所を変えよう。俺たちこの辺りで良い店を知ってんだ。一緒に来なよ」 「………ら」 「え? なんて?」 すでに腰に手を回して引き寄せながら、男は慎也の顔に耳を近づけた。 「…お金があるなら」 ボソリといった言葉を聞き取った男は、一瞬キョトンとしたあと、身を仰け反って笑い出した。 「ハハハハッ! えれぇ小っさい声で何を言うかと思や、オイ、こいつどうやらbitch(ビッチ)らしいぜ? 慣れねえツラしてるが、今晩が“初夜”のつもりなんじゃねえの?」 「どうやらそうみてえだな」 腰に手を回す男の後ろで、もう一人の男も下品に笑った。 慎也はそれをちらりと見ながら、震えそうになる手をぐっと握りしめた。 ーーー今更後になんて引けない。自分で決めたことなんだ。腹を決めろ。 腰から尻へと太い手がねっとりと撫で回し、慎也は嫌悪感を声に出さないようにするのに必死になった。 何が何でも、今は金がいるのだ。 手っ取り早く、多くの金を手に入れるためには手段を選んじゃいられない。 17歳にもなって、好きな女の子とキスもしたことがないのに、今日はホモの男たちと寝る。 自分の人生は一体どこから狂ったのか……、いや、もう、きっと最初からなにもかも狂ってるんだ。 自分の人生だけじゃない。 この世界の何もかもがーーーー…………。

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