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通された部屋は、予想していた通りコンクリートが剥き出しの窓もない殺風景な一室だった。
部屋の真ん中にテーブルと椅子があるだけ。防音加工もしてあるようで、邪魔者の侵入も一切許さない厳重さだ。
“尋問”するにはうってつけの部屋に見えた。
「ーーーシンヤ・シブサワ。17歳。5年前に父親のカズヒロ・シブサワと共にアメリカに入国。市内のジュニアハイスクールに通うが2年半で退学。その後は足を負傷した父親の介護をしながらファストフード店や新聞配りのバイト生活か」
慎也を連れてきた2人の警官とは代わり、中年の小太りな警官が慎也に聴取を始めた。
2人の警官はドアの脇に立って話を聞いている。
マーティスと名乗った小太りの警官は、少し薄くなった頭のてっぺんをかきながら、荒々しく息を吐いた。
「火災の火元が君たちの部屋だったということは、すでに聞いているね?」
慎也少し俯いてから、頷いた。
「はい。でも、何かの間違いじゃないんですか? 父は自由に家中を動くことは出来ないんです。原稿を書くために仕事部屋に引きこもっていることがほとんどで、僕が出入りする以外はあそこで一人で黙々と記事を書いてます。煙草だって吸いません」
「そのようだね。彼は仕事以外のことは全て君に任せていたと、こちらの調べでもわかっている。まあ火がでた原因が全て、火そのものを使っているとも限らないんだが…たとえば古いコンセントの接触トラブルとかね。しかしひとまず今回はその考えは無しだ。あのアパートは造りこそ年季が入っているが、設備はしっかりしていた。古い電化品は取り替えられ全て新しいものに変わっていたし、火災報知器も正常に動く。君たちの部屋にはキッチンにあるガスコンロやレンジ以外に火を扱えるものはなにもないこともわかった」
マーティスは書類をめくりながら、「だが」と続けた。
「通報によると、最初にボヤが出たのは君たちの部屋の西側の部屋だ。…ああ、君のお父さんの仕事部屋だね。買い物に出ていた隣人の奥さんが第一通報者だがね、何かの爆発音とともに窓ガラスが割れるのを見たと。時刻は16時40分頃だ」
「ば、爆発!?」
慎也は椅子から身を乗り出した。
「部屋が爆発したんですか!? 父さんがいる部屋で! そんな…なんで」
マーティンは書類から目を離し、上目遣いで慎也を見た。
「……ちなみに、君はその時刻、どこで何をしていたのかね」
慎也はマーティスの深いくぼみの奥から覗く鋭い目に、無意識に唾を飲み込んだ。
「僕は…、夕刊の新聞配達の最中でした。16時過ぎに家を出てから、うちの火事を知る17時までずっと…」
「それを証明する者はいるか?」
「それは…」
慎也は俯いた。
新聞配達は時間内で指定の範囲全てに新聞を配り終えなくてはならない、ハードな仕事だ。配達先の住人や通行人と喋る暇もない。
16時40分頃だとすると、ちょうど10丁目のあたりを回っていただろう。その辺りの住人に話を聞けば、慎也を見かけた人間も出てくるかもしれない。
だが配達人は日によって変わるし、制服姿のため誰だとは判別しにくいだろうし、そもそもそんなに気にも留めないだろう。
「…難しいと、思います」
「なるほど。では君は、火事が起きた時刻のアリバイを証明することはできないわけだな」
慎也はマーティスの言い方に引っかかりを覚えた。
「アリバイ、だって?」
「ああ。なにか?」
「僕のアリバイがなぜ必要なんです?」
マーティスは書類から一度目をあげると、すぐに文書に目を戻した。
「刑事の仕事が何か、君は知らないのかい?」
「待ってください、これは“事故”なんでしょう? あなたはさっきから質問がおかしい。まるで“事件”として進めてるみたいな言い方だ。一体どういうことです?」
マーティスはため息を吐き、めくっていた書類を元に戻して横に置いた。
困惑した顔でいる慎也を眺め、マーティスは椅子の背もたれにどっしりと寄りかかると言った。
「……16時40分頃、君は本当に新聞配達の途中だったのかな」
慎也は眉をひそめた。
マーティスの目が鈍く光る。その視線が、数千の針のように自分を壁に縫い付けてくるような感じがして、嫌な汗が滲んだ。
「実はね、シンヤくん。爆発が起きる数分前、君が君の部屋から出て行くところを管理人が目撃しているんだよ」
「………な……」
頭が真っ白になった。
僕が、爆発の直前に、部屋から出ていった!?
言葉を失う慎也に、マーティスは続ける。
「目撃しただけじゃない。管理人は『君』と会話もしたそうだよ。『父親の調子はどうだ』と聞くと、『君』は『いつも通り、仕事に夢中だよ』と答えていったそうだ。どうだ、記憶にあるかな?」
「…ばかな…………」
慎也は目眩がしそうになり、右手で頭を支えた。
ーーーあり得ない。
僕はたしかに新聞配達で外出してたんだ。家を出たのは爆発から40分も前だ。
それは僕じゃない。
僕に姿を似せた、別の誰かだ。
何がどうなってるんだ……!
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