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あれから記憶が曖昧だった。
アパートは全焼した。
基盤が主に木材で出来ている古い建て物であったことと、4階建の小規模なアパートだったことで燃え広がるのがはやく、死亡者は3人出た。父はその内の一人だった。
火事を目の当たりにしてから放心状態の慎也は、遺体をよく確認できないまま、救急隊員に運ばれて行くのを呆然と見ていた。
消防隊員と警察官に順々に身元確認と事情説明を促されたが、何を喋ったのかよく覚えていない。
検死官の調べによりそれぞれの身元がはっきりされると、亡くなった3人のうち父を除く2人はすぐに葬儀が行われ土葬された。
海外赴任中だった父は、遺体の処理をするにはさまざまな書類のやり取りを国をまたいで行わなければならず、火葬されたのは火事が起きてから3週間後だった。
その間、父の遺体は防腐され安置所に保管されていた。
もはや火事で焼きつくされ、原型をとどめていない父の遺体を火葬し、最後に残ったのは白い遺灰だけ。
遺灰の入った箱を持つと、そのあまりの軽さに、思わず涙がこぼれた。
ーーー死んでしまうと、こんなに軽くなってしまうのか…。
つい父のことを呼びたくなくなってしまい、奥歯をぎりっと噛み締めた。
いない人を呼んだ後の虚しさは、母親の葬儀の時に散々思い知っている。
呼べない代わりに、涙が倍になって流れた。
「ーーー君、ちょっといいかね」
火葬場の玄関口で突っ立っていると、いつのまにかそばに真っ黒な正礼装に身を包んだ警官が2人立っていた。
慎也は涙も拭わないまま彼らの方に振りむいた。
引き締まった体つきに背が大きい男が2人となると、そこにいるだけでも威圧感があった。
さらにこの2人に関しては、その無条件の威圧感と同時に、慎也に対する挑戦的な視線と態度が合わさり、慎也は無意識に緊張した。
「カズヒロ・シブサワ氏の息子さんの、シンヤくんだね?」
「はい」
「この度はこのようなことになり、大変辛い時ではあると重々承知しているが、少し話を伺いたいことがある。我々と一緒に来ていだだけるだろうか?」
「聞きたいこと…?」
慎也が上の空で聞き返すと、もう片方の警官が続けた。
「今回の火事の出火元について、少し疑問点があってね。家族を亡くした君にこんなことを言うのは我々もやりにくいところがあるんだが、あの火事の出火源は2階の204番室、…君たち親子が住んでいた部屋だということが判明したのだ」
「え……!?」
遺灰の入った箱を抱きしめる腕に力がこもった。
「そんな…馬鹿な! 父が火でなにかトラブルを起こしてしまったということですか。何か作業をしているときに……、だけど父は足が動かないんだ! 料理も洗濯も、ここ数年僕がやっていて…」
「まあ落ち着きたまえ。詳しい話は後々聞こう。とにかく、我々と来てくれるね?」
「………っ」
慎也は俯いて唇を噛み、ゆっくりと頷いた。
どういうことだ。
僕らの部屋が出火の元!?
そんな………。
慎也は警官2人に挟まれてパトカーに乗った。
まるでどこへも逃がさないと言わんばかりの囲い方だ。
事情聴取するだけにしては、警官たちの空気が重々しすぎる。
なにかおかしい……。
一体どうなってるんだ?
でかい男たちに挟まれながらも、慎也は目的地まで黙って膝の上の箱を抱えていた。
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