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背中がガラ空きですよ
「名津井先生って、猫背ですよね」
またしても、お昼ごろにやってきた春井。今は夏休みだし、授業もない。補講をする期間も完璧に過ぎているはずだ。それでも、お前にも仕事はあるだろうし、暇じゃないだろうに…
いつものように手作りの弁当を食べさせられ、食後のコーヒーを飲んでいるときだった。
「…なに」
「肩とか凝ってないんですか?」
確かに、小さいころから猫背な俺は、肩やら首やらバキバキと音が鳴る。身長も大して高い訳でもないんだけど…確か今年の健康診断で分かった身長は、172㎝とかだった気がするけれど、成人男性としては十分じゃないだろうか。
対照的に、この目の前のさわやか野郎は、結構身長が高い。俺とコイツが立ち上がると、見上げる体制になってしまうため、屈辱だ。
「俺、結構上手いですよ」
「…なにが?」
ふと、顔を上げると奴が手をワキワキしている。なんだ、その親父みたいな動き。
「だから、肩、揉みましょうかって」
「…遠慮する」
なんとなく、コイツに俺の身をゆだねるのは危険な気がしたので断固としてno!の意思表示をする。顔の前で腕を交差させ、バツ印を作ると、奴が俺の手首をつかんで腕を開かせようとする。こちらも意地になって、ぐぐぐ、と力も入れる。いや、コイツ力つえぇ!!
「揉ませてくださいよ~」
「いやだ!なんか、変態臭い!!」
「え~~ひどいな~~」
え~~という割には、春井は大人しく手を放すわけでもなく、今度は俺の右手を両手で包んだ。
「いたたたたたたたたたた」
い、痛い!でも、気持ちい!!俺の掌を両手でマッサージし始められ、最初のうちは抵抗を見せたものの、春井の手の温かさだとか揉む力の強さが丁度良くて思わず息を「っ、はぁ、」と吐き出した。
すると、身体を硬直させた両手の主に「どした?」と薄く目を開け、確認する。
「なんでもないですよ」薄く笑った春井に、内心やっぱコイツなに考えってかわかんねえな…と慄きつつ再び目を閉じる。
「名津井先生、後ろ向いてくださいよ」
その言葉に、大人しく後ろを向くと肩に手を置かれる。春井の武骨で太い指が肩から背中をなぞっていく。
「んんっ、あー、」
思わず声がでてしまい、ちょっと引かれたかな…と目を開けたけれど、特に反応もなくそのまま肩をもみ続ける春井に己が身を任せることにした。
「ひあっ」
しばらく、揉まれ続けていると突然首筋に違和感が走る。
焦って首を片手で守り、後ろの男を睨みつけて「なにすんだよ!」と威嚇する。当の本人は、真顔で「ちょっとムラッときて…」なんて抜かしてやがる。
「こンの、爽やかムッツリ野郎!!次やったら、もうコーヒー淹れてやんねえからな!!!!」
自分が「次」という言葉を発していることには気が付かなかった。
***
あーーー、えっろいなあ…
肩揉みますよ、なんて言ったものの、反応が良い。
「っ、はぁっ、」…なんて、悩まし気に息を吐かれてしまえば、こちらの意図に気が付いていてわざとやっているのではないかと思ってしまう。まあ、無意識だからタチが悪いんだが。
その黒い髪と細くて白い首のコントラストに妙に目がひかれてしまう。
少し、力が入って白くなめらかな首がほのかに紅潮している。鎖骨の裏へと指を押し込んでいけばそこはもうリンパ腺が通っていてそんな柔い部分を俺に晒してしまっていいのか、とこちらが参ってしまう。
衝動的に、中指と薬指で首をそっとなぞると、「ひあっ」なんてかわいい声までだしやがって…ひあっってなんだよ…ひあっって…思わず立ち上がってしまいそうになった息子をなんとか収め、「なにすんだよ!」と威嚇してくる様子がかわいらしくてしょうがない。
正直に「ちょっとムラッてきて…」と述べれば、怒鳴り声とともに腰のあたりを蹴とばされ、保健室の外に追い出されてしまった。
それでも、彼の言葉の中には「次」が含まれていて、本当にちょろいな…なんて、本人に聞かれたら腰ではなく顔に蹴りを入れられてしまいそうなことを考えながら職員室へと足を進めた。
顔が緩んでしょうがないので、とりあえずいつもよりニコニコしておいた。
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