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第11話
最悪だ。
逃げて逃げて、十年間完璧に逃げおおせたと思っていたのに、父親の意地の悪さに今更ながらに統久は腹だししく思っていた。
十年ぶりに会った弟からは、あの頃と変わらない暖かい太陽のようなにおいがしていた。
運命の相手が、すぐ近くにいると本能が脳の動きを停止させていた。制服にフェロモンの流出を抑止する樹脂を使っていたが、少し漏れてしまったからか、歩弓はかなり反応していた。
発情しても平常心を保つ訓練を十年繰り返してきたが、かなり限界だった。
あのまま、攫ってしまえたら良かったのにと思う反面、その運命は絶対に叶わないという思いから、苛立って当てつけのように近くに居た男を自分の運命だと宣言してしまっていた。
巻き込んだ桑嶋には悪いことをしたと思うが、誓いを破るわけにはいかないのだ。そんなことをしたら、今度こそ自分を赦すすべがなくなる。
ロッカールームで激昂していた真剣な桑嶋の様子に、統久はなんとなくだが罪悪感を感じていた。
誰でもいい。それはそうだ、運命の相手でなければ誰でも一緒だ。
それでも運命に与えられた性とかいうなら、俺はそれを受け入れると決めた。
判定を受ける前は、普通に女性を好きだと思っていた。しかし、オメガは互いに希少種である女性に相手にはされなくなる。別にそれでもいいといってくれた女性も中にはいたが、子を成せるオメガと女性が結ばれることは世間が許してはくれないようだった。
人類が宇宙に飛び出してからというもの、その居住地域の風害のせいで女性が少なくなり、人口の二十パーセントほどしかいない。オメガの人口も十パーセントとなっており、三人に一人しか子供を成せるカップルができない。そんな状況で、オメガが女性を独占するなど許されないことだった。
好きだとか嫌いだとかいう感情など、どうでもいいと思えるようになったのがいつだったかなんて覚えてない。
ただ、守りたいのは一人だけだ。そのためなら、それができるなら、自分のこれからの人生をすべて投げ打っても構わないと思えた。
もし、そんな俺をそれでも好いてくれる相手がいるなら、それが一番幸せなんだろうけどな。そこまでの期待はしていない。
ただ、子供を産んで課せられた使命を果たせればいいと思っている。
だからといって、俺があの時犯した罪を償えるだなんて、そんなことは考えてはいない。
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