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第13話

「セルジューク……あれ、副局長じゃね?」  隣を歩くゴルデスに声をかけられ、桑嶋は腕をひっぱられて足を止めると、車線の向こう側から逆方向に歩いている統久の姿を見つける。  何人かの男たちに囲まれるようにして、少しご機嫌そうな表情で話をしながら歩いている。その腕は、隣を歩くドレッドヘアの男の腕に絡み付いている。 「これからお愉しみってわけじゃねえのか。やっぱり典型的なアバズレだな」  何故か酷く裏切られたような気持ちになりつつ、チッと舌打ちをすると彼の背中を睨みつける。  運命の番だと宣言されただけで、今後を誓ったわけでもなく、嫌いだとも言ってやった相手だというのにどうにも嫌な気分でいっぱいになる。  「そうだな、アッチはホテル街だしなあ」 「やっぱし、オメガさんってのは我慢できねえのかねえ」  鼻先で笑い、桑嶋は不快そうに唇をひん曲げるとどんどんと遠ざかっていく集団の背中を見やり唾を吐き捨てる。  彼自身がさっきも言っていたように、誰にでも身を任せるってことなのだろう。快楽のためなのか、どうにも我慢ができないからなのか分からない。 「少し、甘ったるいにおいしてたしね。運命の番に当てられたってことかもね」  当てられたのなら、桑嶋自身もラットをおこしていないとおかしい話だが、まったくいつもと変わらない。 「……オレは別になんともねえけどな。ホントに……神聖な職場が爛れたら困るんだけどな」  一度嫌いだと思うとその男の話をすることすら嫌な気分になってくる。  オメガであることを呪っているような男は多いが、彼はまるでそのこと自体も愉しんでいるかのように思えた。それが気に入らなかった。そのことで苦しみながら死んでしまった彼の母を、まるで冒涜しているかのように思えたのだ。 「まあね。でも、そういうの持ち込むタイプではなさそうだったけどね」 「根拠あんのか」  ゴルデスの彼を擁護するような言葉に噛み付くように問い返してしまう。 「……終業間際にさ、資料室の場所と過去の記録がある棚の位置を聞かれただけなんだけど」 「昼寝の場所探しじゃねえの」  馬鹿にしたような桑嶋の批判の言葉に、驚いた様子でゴルデスは視線を向ける。 「珍しいね。セルジュークがそんな風に言うなんて。どっちかっていうとオメガの擁護派で、アルファ至上主義とは程遠いと思っていたよ」  ゴルデスの意外そうな言葉に、彼は自嘲を浮かべた。 「じゃあ、オレ帰るわ」   桑嶋はひらっと手を振って自分の居住区のある方に足を向けて少し早足で歩きだした。 「……アルファが一番クソだ……」

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