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第14話

「この船の図面だと、この部分に差異がある。ここらへんに隠し部屋がある可能性があるな。ここは調べたのか」  統久は問題なしとの所見に置かれている図面を一枚づつチェックをおこない判を押していたが、一枚を取り上げてじっと眺めて暫く図面を調べるように端末を使って確認した後、担当した部下のゴルデスを呼んで指摘する。 「差異って言っても、たった十メートル四方もないですよ。ただの柱だと言われたらそれまでですよ」  もっともぶった口調でゴルデスが説明すると、統久は納得がいかないといった顔で首を横に振る。 「何のための潜入捜査だよ。たった1gで千ドルのやりとりがおこなわれるんだ。十メートル四方だったらどんだけ運べる?」 「そんなこと言ったらキリないですよ。そのうち柱の中にも隠し扉があるとかいいだすんじゃないですか。副局長、いいかげんにしてください。ここはもう所見で承諾を出してるんです」  一度は承諾を出している案件を覆すのは、プライドが許さないとばかりに反論するゴルデスの顔を見返して、統久は再度首を振る。 「そりゃあ言うだろ。我々の仕事に見逃しは許されないからな。柱の小細工だとしても見逃すんじゃない。おまえはさ承諾を出しているから、見逃すって言うのか」  「俺はやりませんよ」  桑嶋のバディとなった男が優秀すぎるほど仕事ができる男だというのは、ゴルデスにも分かってきてはいた。  しかし、こんなに細かい数値の疑いで、承諾した案件を再検査というのは納得がいかなかった。  辺境海賊相手にしていたというので、屈強な体つきからも豪腕系の脳筋男だと思っていたのだが、意外にも知的で、できないことはないのかというくらいの働きをしていた。   また、それがアルファ性の優越を覆す結果であり、ゴルデスは反感を少なからず覚えていた。 「オマエがやらねえっていうなら、別にいいよ。俺がやるから構わないよ」  試すような言い方をしながら、相手の目を見返して、最終判断を促す。無理矢理やれと言われるよりも、そういわれる方が腹立たしい。 「……もう、いいです。分かりました、再調査しますよ。で、何もでなかったらどうするんです」  仕事をとられることへの屈辱の方が大きく、諦めたようにゴルデスが問い詰めようと言葉を返すと、 「俺がくせえって言ったら、絶対でるんだよ」  自信ありげな態度で言うと、ゴルデスの肩をぽんと叩いて、耳打ちをする。 「あるとしたら三百キロだ。さて問題でーす、末端価格一グラム千ドルとして、一体何ドルでしょう」 「……三億ドル」 「そんなに摘発したら、勲章もらえちゃうよ。やりたくないなら、俺やっちゃうよ」  まだ、勲章をもらったことがないとぼやいていたゴルデスの言葉を覚えているのか、統久は最後にもう一押しとばかりにダメ押しをしておく。 「是非、俺にやらせてください」  ゴルデスは、気がつくと彼にそう告げていた。  統久の言葉が人心を手玉にとるのもあったが、数日で難なく日々の仕事を覚えて、このような感じで的確な指示をくだせるようになっていた。 もう局内では誰も彼をオメガだからという扱いをするものはいなくなった。  歩弓は変わらず彼をみるだけでアレルギーを起こしている様子で、ほとんど外部出張ばかりで事務所にはいない状況になっていたが、統久が歩弓の分のフォローも全部受け持ってしまっていたので、周りの部下達もそのことは全く気にならなくなっていた。  しかし一番信頼関係をもたなくてはいけないバディである桑嶋は、無理やり組まされたこともあり依然として統久に嫌悪をあらわにし続けていた。  

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