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第15話
「そこ、オレの席なんですけど」
勤務時間もとうに過ぎて外回りから帰ってくると、桑嶋の席で珈琲を飲みながら寛いでいる統久が居て、むっとして桑嶋が見下ろす。
局の中にはもう誰もいないようで、桑嶋は二人きりの空間に居心地悪そうな表情を浮かべる。
嫌いな人間と二人きりだなんて、拷問でしかないな。
「オマエが帰ってくるのを待ってたんだ。バディだってのに単独行動多すぎなんだよ」
統久はゆっくりと椅子から席を立つと、何枚か書面とデータを桑嶋の机の上に置く。
「オレはアンタと行動したくないだけです」
はっきりとそう告げると、統久は気にした様子もなく隣の椅子を引っ張ってきて腰を下ろして、桑嶋にも座るように指差す。
上司命令であることもあり、逆らえずに桑嶋は椅子に座ると、目の前の書面を眺める。
「俺がオマエの足を引っ張るように見えるか」
「そういう理由じゃなくて、オレは本能的にアンタが気に入らない」
アルファに捨てられた母のようにどうしようもない理由でアルファに身を任せていたのではなく、地位も財産もある統久が、あんな風にいい加減に誰にでも身体を任せているのが許せないのかもしれない。
警視総監の息子で、勲章を何個も得るような容姿にも能力にも優れた男が、自分が庇護しようと考えているオメガだということが許せないのだ。
見ていて腹がたって仕方がないのだと思うし、それが差別なのだというのなら、そうなのかもしれないと桑嶋は考える。
「調査した情報筋からだと、今週末、その貨物船の中の積荷に非合法に略取された美術品が隠されているらしくてよ………って、セルジュ聞いてる?」
馴れ馴れしくいつの間にかセルジュと愛称呼びをされることにも、桑嶋は更にイライラが募る。
今まで自分をセルジュと呼んでいたのが、母親だけだったからかもしれない。余計に腹が立って仕方がない。
「聞いてますよ。まあ、どうせ聞かなくてもアンタなら勝手にうまくやってくれるんでしょ」
桑嶋は聞いても仕方がないとばかりに両腕をあげて、統久の目を見返すと、黒髪を掻いてどうしようかとばかりに、じっと真剣な顔で見つめ返される。
「ま、俺もうまくはやるつもりだけどね。オマエの協力が必要なんだ。潜入捜査はひとりじゃできない」
潜入は危険な捜査方法で、規定でも単独は認められていない。それだけにバディ間の意志の疎通は大事だといわれている。
「わかって、ますよ」
「ま、初めての共同作業なんだしよ」
桑嶋の様子を窺ってから、ニヤニヤとした笑いを含む相手の不真面目な統久の表情と態度に、流石にカチンときて思わず机をガンとたたく。
「アンタのその態度が気に入らない。大体、運命の番とか言われてバディ組まされましたけど、もしそれが本当ならオレもアンタになんかしら感じてなきゃおかしい」
やたらイケメンだし誰より秀でていて、副局長に据える人間として人事がおかしいと思う理由もすでに桑嶋の中にはなかった。
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