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第16話
大体アルファに劣等感を抱かせるオメガなんているのか。
ヒート期間の休業があったとしてもお釣りがくるくらいの活躍ができる男で、差別する方が間違いだというのは分かっている。そういう問題ではなく、こんな風にふざけた態度をとるのが、桑嶋には我慢ならないのである。
「まあ、そうだよな。何も感じるわけない。運命の番ってヤツは、嘘だ。嘘ついてゴメン」
桑嶋の言葉に統久は珍しく真摯な表情を浮かべると、頭をぺこりと下げる。
信頼関係を築くのに嘘を通すのは駄目だよねと、愛嬌のある表情で笑顔を向けられ、桑嶋は思わず絆されそうになる。
「嘘って……なんで、そんな……」
挑むような顔つきで運命の番だと告げたあの時の統久の顔には、桑嶋は何故か必死さを感じていた。
「……そうだな、そうだったらいいなって願望かな」
悪戯っぽく笑う統久の表情には他意はないようで、桑嶋はぐっと拳を握り締めた。
「願望って……なんなの。オレに一目惚れしたって感じじゃねえし。アンタ、運命の番とか探してたりすんのか」
「……いや、運命の番なんていねえよ。そんなんじゃないよ。俺は総監の長男だしね。気を使われてバディ組むよか、セルジュみたいに、俺のこと嫌いって奴のが気楽なんだよね」
そんな感じだから気にしないでと統久は告げると、書面を再度指差して、経路に赤いラインを引きながら、
「俺、抑制剤が効かねえのよ。ヒート周期はそんなにズレはねえんだけどさ。何かあった時にバディの助けは必要なんだ。だから、作戦ちゃんと聞いてくれないか」
どこか諭すような物言いは柔らかくて、上官といえど決して上からではない口調は耳に心地いい。
統久は辺境警備隊で屈強な猛者どもを従えていた隊長だったと、桑嶋は聞いていた。
優秀だと言われているアルファより、ずっと理知的な口調と恵まれた体格で、巷で聞くオメガの印象とはかけ離れていた。
先入観なしに見れば、別に嫌う要素などはない。彼には生まれながらの帝王、そんな印象さえうける。
きっちりとたてられた作戦と説明を聞きながら、桑嶋は奥歯をぐいっと噛み締める。副局長のポストを奪われたと逆恨みもしたが、どれをとっても、仕事の上での穴はなく、太刀打ちなんてできそうにない。
「作戦も把握したし、説明も分かりやすかった。アンタの功績見ても、ここの副局長じゃ理不尽とか思わないのか」
「思わねえよ。統領のポスト蹴ったのも、これ以上婚期逃したら、子供5人産めないし」
「って、アンタ、5人産むのかよ」
思わず驚いて顔をあげて視線を返すと、ふっと悪戯っぽく笑みを含んで緩んだ表情の統久に見返され、桑嶋は一瞬息を飲み込んだ。
「少なくても5人、できれば野球チームを作れるくらいだな。だってさ、俺ほど優秀な奴の子供だよ?世界のためにも量産しなくちゃいけないだろ。それが、俺の使命だと心得てる」
いやいやいや。
婚期逃すレベルじゃなくて、なんでそんなに子供を作ることに使命感を感じてるんだ。
しかもどんだけ自信満々に世界のためとか。
訳が分からないとばかりに桑嶋は彼を見上げたが、再び面白がるようにニヤニヤと笑う彼からは答えは得られそうになく、任務の作戦を再確認することに集中した。
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