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【試し読み】身の丈合わない男の話 8

 試合が始まってハルとまともに向き合う必要がなくなり、智はようやく一安心。興味が無いとはいえ、臨場感や観客の熱気も手伝って、試合自体はそこそこ楽しめた。試合は十六時からだったが、延長戦、PK戦ともつれ込み、終了したのは十九時近く、気づかない間に日が暮れていた。  あまり会話の無いまま並んで歩き、駅に着いた。スタジアムから一斉に吐き出された大量の人で、小さな駅はぎゅうぎゅうだった。 「おもろかったな」  そうだった、と智は思い出した。試合が終わったということは、またこの隣の他人と向き合わねばならない。 「はい」 「知らん間に力入っててんやろなあ、全身疲れた」 「そうですね」  当たり障りのない返事をしながら、早く解散したいと思っていたとき。 「飯でも行かへん?」  時間的にも、当然と言えば当然の流れである。もちろん智は即刻断りたかったが、ハルが椚田の友人であることを考えるとあまり無碍にも出来ない。渋っているのを察したのか、 「今日付き合ってもろたお礼に奢らして?」  さらに畳みかけてきた。しかしこれでイエスと言えば、奢ってくれるから行くことにしたみたいで感じが悪いのでは……などと一人ぐるぐると考え込んでいたら、後ろから声がした。 「案内板見えへん」  智はドキリとした。こういった類のことを言われ続けてきたから、反射的に自分のことだと思うようになってしまった。慌てて身を縮めながら移動した。 「そういやえーちゃんてデカいな」  その一連の様子を見ていたハルが言う。わざわざ念押しするように言ってくれるなよ、と智は思ったが 「かっこええな、俺ちっこいから羨ましい」  そういえば、ハルはどちらかというと小柄だ。確かに一般的に、男性は身長が高い方がかっこいいのかもしれない。でもだからといって背が高けりゃいいというわけではないのは自分自身が証明している、と智は思っている。 「いつも邪魔扱いされてますよ。さっきみたいに」 「そっかぁ。ええことばっかりでもないんやな」  長身が故の愚痴を吐けば、そんなことは身長があるから言えるんだ、贅沢だ、などと反撃されるのが常なのに、小柄なハルにすんなりと肯定されたことに智は驚いた。 「で? 焼き鳥屋でええ?」 「あ、はい」  条件反射のように返事をしてしまっていた。完全にハルのペースに乗せられて、駅近くの焼き鳥屋に向かう羽目になってしまった。  智はもちろんソフトドリンク、ハルはというとそれはよく呑んだ。呑んでも呑んでも顔色一つ変わらずよく喋るハルを、下戸の智は羨ましく思ったぐらいだ。  ハルはよく喋るだけではなく、智の仕事の話や故郷の話を上手く聞き出した。口下手な智もついつい自分のことをたくさん話してしまい、一人になってから、べらべらと面白くもない話をしてしまったと自己嫌悪に陥った。 【試し読みここまで】

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