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【試し読み】身の丈合わない男の話 7

 スタジアムに入るとすでに人であふれかえっており、席までたどり着くのも大変そうだ。席についてまた移動するのは面倒だと踏んだ智は 「先にトイレ済ませてから席に行くので、先に行っててください」  そう言ってハルを先へ行かせようとしたが 「そうなん? ほなここで待ってるで」  相変わらず薄笑いを浮かべてそう言う。少し一人になりたいという気持ちもあった智は落胆しつつも 「そうですか……じゃあ行ってきます」  と言い残し、手洗いで用を足した。  ハルと別れた場所へ戻り、共に席に着く。ようやく落ち着くも、今度は別の意味で落ち着かなくなった。隣同士並んで座る相手は、初対面からタメ口、けっこうグイグイ来る感じの、正直苦手なタイプだ。それでなくても智には人見知りの気があって、初対面の人と打ち解けるには時間がかかるタイプだというのに。そしてせめてサッカー好き同士なら会話も弾んだだろうが―― 「暑いな。はい」  そんなことを考えていたら、目の前にビールが入ったプラカップ。ハルが気を利かせたのだろうが、あいにく智は下戸だ。 「せっかくなんですが、僕お酒は」 「そうなん? じゃあはい」  ビールに替わってオレンジジュースのプラカップが差し出された。そしてハルが早速グビグビと喉を鳴らしてビールを飲み干している。 「ありがとう、ございます……」  先ほどから強い陽射しに照らされ続けた智の身体に、オレンジジュースの甘みと酸味、冷たさが心地よく染み渡ってゆく。 「は、おいし」  思わず口から零れた一言に、ハルは破顔した。 「うまいなあ。あっついもんな今日」 「そうですね」  あっという間にコップの中は氷だけとなり、智はコップを額に当てた。 「気持ちいい」  目と閉じてうっとりしていると 「あ! ええな、俺も俺も」  ビールに氷ははいっていないためハルがうらやましがり、智のコップに手を伸ばしてきた。距離が近すぎて、思わず智がのけぞる。 「ど、どうぞ」  おずおずとコップを差し出すと、ハルも同じように額に当てた。 「ほんまや気持ちええ!」  試合が始まる前から疲れた、智はそう思っていた。隣の他人に身構え続けることに疲れてきたのだ。さっさと試合開始して欲しいぐらいだ。そしたら試合に集中してくれるだろう―― 「わっ?」  前触れもなく首にタオルをかけられて、変な声が出た。見てみるとスタジアムのグッズであるスポーツタオルだった。スタジアムのマスコットキャラクターのイラストが描かれている。 「首めっちゃ焼けるから、そないしてかけとき。それやるから」  見るといつの間にかハルも同じように首からタオルをぶら下げていた。もちろん律儀に礼は言ったものの、こんなタオル要らないのになあ、と思う智だった。

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