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【試し読み】身の丈合わない男の話 6
「あっごめんえーちゃん! ちょっとトラブって今日朝からずっと会社おんねんけど、ちょっと行けそうにないねん。なんとか間に合わそうと思ってギリギリまで頑張ってみてんけど……」
「もしかして、一昨日のあの件ですか」
「うん、どうしてもあれではアカン言うてきたみたいで」
「そうなんですね。じゃあ僕も今から……」
「ああええねんええねん。えーちゃんはハルと一緒にサッカー観に行ったって! 一人で行かすのかわいそうやん」
「…………わかりました」
なんて日だ。
お目当ての椚田はドタキャン、並んで歩きたくないようなほぼ知らない人と二人きり、特に興味も無いサッカー観戦だなんて。
「椚田さん、仕事でトラブルがあって来られなくなりました」
「マジで」
「なので二人で行ってきて、とのことです」
「マジかー」
天を仰ぐハルを見て、彼も自分と二人はイヤなんだろうなあと智は思った。ほとんど話したこともないような相手と一緒に観戦するぐらいなら、一人で気兼ねなく観たい、と思っているかもしれない。
「……あの、もしあれでしたら、僕帰りましょうか」
「え? なんで?」
「気心知れた人とじゃないと気を遣ったり、集中して観戦できないかなあって思って……」
「ん、全然気にせえへんよ。ありがとう。行こ」
「……はい……」
ハルは笑顔でそう言うのだが、帰ってくれと言って欲しかった智の返事は重かった。
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