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【試し読み】身の丈合わない男の話 5
「な、それよりあれ」
ハルが椚田に耳打ちし、椚田もそうだ、とバッグを探り出す。
「えーちゃんえーちゃん、来週一緒にサッカー観に行かへん?」
突然のデートの誘い(ではない)に、智のテンションがにわかに上がる。
「サッカーですか?」
「せやねん。知り合いのチームが出る試合のチケットいっぱいもろてなあ」
椚田はそう言いながら、チケットを智に手渡した。正直なところ、智はサッカーに興味など全くなかった。だが椚田と週末を共に出来るなら、口実は何だって良かった。それも椚田からの誘い、乗らないわけがない。
「席は俺の隣やから、どっかで待ち合わせて一緒に行こっか!」
「はい!」
明らかにそれまでの声色と違い、智の返事は軽やかに弾んでいた。
「ハルはどこが都合ええ? 地下鉄で行く?」
「せやなあ……」
智の天にも昇りそうだった心持ちは、一気にどん底へ。
――なんだ、二人で行くんじゃないのか。
そう思ったが、それでも仕事ではない日にプライベートで椚田に会えることを喜ばねば、と気持ちを切り替えた。
そして当日。日焼けが気になるほどの快晴だ。
三人でスタジアム最寄りの駅で待ち合わせることになったので、智はいつものように十分前には到着するよう計算して駅へ向かった。椚田もいつも約束の時間より早め早めに行動するタイプだというのはともに仕事をしている中で知っていたし、もとより智もそういうタイプだ。
しかし駅に着くと、約束の場所にはハルだけがいるという、智にとって一番避けたいパターンが待っていた。
「どうも」
智に気づき、薄く笑んで片手を挙げたハルは、極彩色の妙な模様のシャツに、黒い袴のようなものを履き、雪駄を履いていた。くわえてロングのマンバンヘアを高い位置で結っており、サングラスをかけていた。こんな人と並んで歩きたくない、というのが智にとってこの日の第一印象だった。
「……こんにちは」
「リョウまだ?」
「みたいですね」
リョウ、とは椚田のことである。親しい友人、そして恋人からはこう呼ばれているようだ。
五分ほどして、智のスマートフォンが鳴る。ディスプレイに表示されたのは、椚田の番号だ。
「もしもしお疲れ様です」
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