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【試し読み】身の丈合わない男の話 4
どうせそんな予定全くあるわけないよ、と目線を移す先は、当の想い人。椚田もこの席にいる。椚田はこの二次会のみの参加だ。できることなら近くの席で話したい、智は当然そう思ったが、それより何より今日は疲れていた。椚田の前で頑張って気を張って振る舞えるかどうかも、自信がなかった。だからもうこの場は今日一日分の食料を摂取する場なんだと開き直り、ひたすら食べた。
席が離れていた椚田とはとうとう最後まで一言も話せずじまいで会はお開きとなり、さらにその後同期だけの三次会が居酒屋で行われることになった。三次会では加藤が無茶に飲まされベロベロに酔ってひどいものだった。それを見てみんなは笑っているが、披露宴で仕事を果たし、二次会で腹が膨れた智にとっては、椚田もいない三次会は疲れがたまるだけで面白くも何ともなく、さっさと寮に帰って眠りたかった。
宴が盛り上がる中、智は一人先においとますることにした。もう疲れが限界だった。酒も飲まない、ハイテンションで馬鹿騒ぎをするタイプでもない智にとって、普段から飲み会は苦痛であった。ようやく一人になれた、とほっとしながら駅までの道を歩く。街の喧騒は多少あれども静かで、外に出られた解放感が心地よく、頬を撫でる風は智を労う。長い一日だった、よく頑張ったな、と自分を褒めながら歩いていると――
「えーちゃん!」
その声に心臓が跳ね、すっかり弛緩モードだった全神経がまたも緊張モードに。ものすごい速さで振り向くと、そこにはやはり。
「三次会終わったん? お疲れさん」
上機嫌の椚田、と隣にもう一人、同じぐらいの年齢の男。
「まだ終わっていないんですけど、あんまりにも疲れたので先に帰ることにしました」
「そかそかぁ~! 一日仕事やったもんなあ」
「椚田さんは」
「ん? 俺は二次会の後こいつと飲んでてん。こいつは悪友のハル」
言われて、隣の男は黙って軽く会釈した。
「この子は後輩のえーちゃん! めっちゃ仕事出来るねんで」
椚田がまるで自分の手柄のように自慢げに褒め称えるもので、智は恐縮するやら照れるやらだったが、
「へえ」
ハルと紹介された男はニヤニヤしながら、値踏みするように智をじろじろと見てきた。その視線を智は生理的に不快だと思った。
「な! 今から三人で飲まへん?」
椚田が手を打ってご機嫌に提案するが
「疲れてるて言うてたやろ。話聞いてへんのかお前」
ハルが鋭く突っ込み、椚田もあっそっか~と笑った。椚田は少し酔っているのだろう。そんな傍ら、椚田と二人だったら行きたかったな、と思う現金な智だった。
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