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第2話

 八代くんもそれに気付いたようで、広告の上で指を滑らせて笑った。 「あ、店長のお気に入りのお店。もしかして今日もお昼ここですか?」 「うん、そのつもり」 「わー、じゃあ俺も一緒に」 「いや、今日は君とは一番(休憩)出ないから。バイトくんとお昼行ってきて」 「えーっ! そんなに俺と出るのは嫌なんですかっ?」 「明日本部に提出しなきゃいけない書類あるから。一人で集中してやっちゃいたいの」  そう言うと、八代くんは「ちぇーっ」と唇を尖らせ、渋々といった様子で去っていった。  今言ったことは、半分本当で半分嘘。  確かに期限が迫っているけどほとんど完成しているから、少し見直しをすればすぐに提出できる書類だ。八代くんとご飯を食べれないくらいに忙しい訳じゃない。  だって八代くんがいると、あの人を見る時間が少なくなって、独占できなくなっちゃうでしょう。  ……我ながら恥ずかしい事を考えているのだなと、少々照れてしまったのを誤魔化すように、僕は指でメガネの縁を持ち上げた。  午後二時、僕は胸を高鳴らせながら一階のレストラン街に降り、彼の店にやって来た。  半月前にオープンしたばかりのこの店の雰囲気は、僕の店とよく似ている。  ナチュラルモダン風のインテリアで、所々に緑が置かれている。  カフェボードにはチョークで本日のおすすめのパスタセットの絵が手描きで描かれていて、それがとても綺麗で一際目を引いた。  女性店員に案内され席に座ると同時に、キッチンの奥に視線を移す。  従業員は皆、同じ格好をしている。  アクアブルーのボーダーシャツに下はベージュのパンツ、腰にはリネンのギャルソンエプロンをつけて。  けれど僕はその中から瞬時にあの人を見つけ出す事ができる。特技だ。  ホッと一息吐く。  ――やっぱり、いつ見てもカッコイイ。  口には出さずに、心の中ではずっとそればかり繰り返していた。  僕は彼に恋をしている。  一目惚れだった。  この店がプレオープンを行った日、早速ランチを食べに来た僕は、良いタイミングでレモン水を運んできてくれた彼に釘付けになった。  僕の理想とする人が、そこにいた。  醸し出す雰囲気とか、人と話してる時の柔らかい笑顔とか、料理を運ぶ時、テーブルに皿を置く時の手の動きや美しさとか。  心臓がバクバクとなって、あんまり見てるから変に思われてるんじゃないかって、なぜか冷や汗まで出てしまって。  こんな気持ちになれて嬉しくなったのと同時に、まずいな、とも思った。  こんなに急に人を好きになるだなんて、経験がないし、どうしたらいいのか分からない。  それに僕には苦い経験がある。  学生の頃――十年以上前だか、僕は男友人に恋をし、思い切って告白した過去がある。  結果的に、僕は振られた。  分かっていた事だから、別に良かった。  けれどその後、その男とは二度と口を聞けなくなってしまったのだ。  きっとその拒絶は、彼なりの優しさだったのだろう。  その時は少し辛かったけれど、しょうがない事だ。近年LGBTは昔に比べたら周りに理解されてきたように思うけど、彼みたいに、もう関わりたくないと反応する人が普通だろう。  僕は男性しか好きになれない。  そしてずっと、特別な相手はいない。  このままずっとひとりでもいいって、本気で思っていた。  それなのに、今の僕ときたら。

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