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第13話

「渋谷のファッションビルで、従兄弟が持ってくる服をどんどん試着して。店員もノリノリで従兄弟と盛り上がってたんですが、僕は恥ずかしくて早く店を出たいと思ってたんです。けど試着しているうちに、服の素材や色で全く印象が変わる事に気付いたんです。くすんでいた顔がちょっと明るく見えたり、身体のシルエットが綺麗に見えたりすると何だか嬉しくなって」 「うんうん」 「結局、ほとんどの小遣いをその店で使ってしまいました。でも後悔は無く、むしろ連れ出してくれた従兄弟に感謝して。服を変えたら、髪型が全くマッチしていなくておかしくて、自然と変えたいって思って。後日、美容室に行って髪も綺麗に整えてもらいました。服って魔法だな、と。こんなにも気分が上がるものだとは思わなくて」 「ふーん」  森下くんは口の端を上げながら、頬杖を付いて僕をじっと見つめていた。  一人でペラペラと熱く喋っていた事に今更気付き、声のトーンを落とす。 「あぁすみません。一気に喋ってしまって」 「ん?あ、いやいや、いい話だなーと思って。続けて?」 「あ、はい。それからはずっと僕なりにファッションに気を遣っていて。いろんな店を巡り巡って、sateenkaariに辿り着いたという感じです。インテリアも好きでしたし、地味な僕にも似合う洗練されたデザインが多いし、入店しやすい雰囲気も好きだなと思って」 「え、地味?」  森下くんは、意外だ、というような表情で僕を見つめる。  その反応がちょっとだけ嬉しい。 「店長、全然地味じゃないじゃん」 「そうですか? たまにうちの二番手に言われますよ。落ち着き過ぎだし、髪も黒いから重たく見えるし、せめてコンタクトにしたらどうかって。もう二十九なので、落ち着いて見える分には全然いいんですけどね」 「いや、その黒縁眼鏡よく似合ってると思うよ。なら、試しに取って見せて?」  僕の反応を待たずして、森下くんは眼鏡を外してしまう。  耳に触れた森下くんの繊細な指先。肌がこすれる音が、ダイレクトに響いてきた。  これは……ほんとにやばい。  僕、きっと変な顔してる。  好きな事がバレてしまう。  片手で顔を覆うようにして、くしゃりと前髪を掴んだ。 「あの……眼鏡、返してください」 「……あ、ごめん」  森下くんはすんなりと、眼鏡を手渡してくれた。  あぁ、気を遣わせてしまったかな。  ぼやけたままの視界で眼鏡をきちんとかけ直すと、ちょっと赤い顔をした彼がニッコリ笑っているのが見えた。  ちょっとお互い、酔いがまわっているのかもしれない。

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