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第15話

「……!」  息を吸い込んだまま、しばらく吐き出すのを忘れた。  心臓がギュンと鷲掴みされたように痛くなる。  まるで冷水を浴びせられた気分。些細なイタズラがバレて親に問い詰められている子供の気持ちだ。  うそ、絶対にバレてないと思っていたのに、バレてたの? 「ラーメン屋でも俺の事見てたよね? さっき言おうとして忘れてたけど。俺の事、なんかチラチラ見てるなぁって前から思ってた」  あぁそうだ、さっきラーメン屋で彼が何かを言いかけていたけど……この事か。  しかも、前から思ってただと?  あぁ、逃げ出したい。今すぐここから。  何かいい言い訳を思い付かないかと思うが、焦ると余計にいい言葉が見つからない。  もうそっとしておいて欲しいのに、森下くんは構わず話を続ける。 「店長もこういう仕事してるから分かると思うけど、お客さんの視線を常に気にしちゃうんだよね。今何を求めてるのか、ちょっとした仕草からでも見抜きたいっていうかね」  分かるよ。僕だって店頭に立つ時は、お客さんに話しかけるタイミングとか気を遣ってる。  けれど威圧感を与えてしまうとダメだから、その人のペースを乱さないように見守る。  だからこっそりと観察するのは慣れていると思っていたのに、まさかばっちりとバレていたなんて。  僕は何かいい逃げ道は無いかと、森下くんの着ているボートネックのボーダーシャツに視線を向けた。  肩と肘の間くらいにブランドのロゴが入っているのを見て、咄嗟に思い付いた事を口走る。 「セントジェームス!」 「……ん? セント?」 僕がそのロゴを指さすと、森下くんもキョトンとしながらそこをじっと見た。 「そのブランド、セントジェームスって言うんです。“Ne de la mer”って書いてありますよね。それって、海から生まれたって意味なんですよ。昔は漁師や船乗り達の作業着だったみたいです。色も豊富で着れば着るほど肌に馴染みますし、そのブランド昔から好きなんです。実はブラックを持ってるんですが、そういうブルーも爽やかでいいなぁと思っていて」 「へぇ、そうなんだ! 確かにずっと使ってるけど全然へたれないし、長持ちしてるよ。店はブルーで統一してるから何色もあるなんて知らなかった。どこのブランドかなんて気にした事無かったし、さすが店長、目の付け所が違うね〜」  だから見てたのかぁと納得したように、自分の着ているボーダーシャツを隅々まで見ている森下くんを見て、ホッとする。  僕も、それがセントジェームスだってさっき気付いたし、実は一枚も持ってない。  ド定番のボーダー服を着てくれていて良かった。  君をよく見ているのは服のせいだって、きっと納得してくれただろう。

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