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第46話 こんな密室で

「人を揶揄うのも大概にしてくださいっ。何度もやめてって言ってるのに……いい加減しつこいし、失礼ですよ」 「店長の方こそ失礼じゃん。俺が揶揄ってるって決めつけて」 「……え?」 「なんで俺のこと信じてくれないの? ちゃんと俺、ずっと前から本当のことを言ってるのに」  真剣に言われて、言葉が出てこなかった。  早く逃げろ。逃げなくては── 「す、少し落ち着いてください。きっと、旅の雰囲気に流されているんですよ」  森下くんの両肩を押して距離をとろうとするも、その肌の質感や弾力を直に感じてしまって、余計に目眩がした。  しかも彼はびくともしていないし、逆にその手を捉えられてしまった。 「どうして俺が、この旅行に店長を誘ったのかわからないの?」 「……友達みんな、都合が悪いって」  観念したように、僕はポツリと呟く。  嘘。本当に? 冗談じゃないの?  僕がゲイだから、面白がっていたんじゃないの? 「んなわけないじゃん。店長と一緒に来たい理由があったからに決まってるじゃん」  身体中が熱くなっているのは、温泉のせいだけじゃない。  熱情。彼は本気なのだ。  本気で僕のことを──  森下くんは笑って僕の瞳を覗き込んだまま、顔を寄せた。  そして僕は。  その唇を、受け入れてしまった。 「──っ……」  ぎゅっ、と拳を握る。  こんな、(ふう)だったとは。  キスってすごい。  そんな中学生みたいな感想しか出てこない。  唇の間をついてきた彼の舌先を、するりと受け入れる。飴玉を舐めてるみたいに、お互いの舌をころころと転がす。  こめかみを伝ってきたお風呂のお湯も一緒に舐めとってしまう。独特な味がするけれど、決して離そうとはしなかった。    一心不乱とはこのことか。  頭がフワフワする。  息苦しい。  角度を変えられたので従順する。  目をぎゅっと閉じていると、脳が収縮している感覚があった。  酸素不足だ、と思って泣く泣く体を離してゆっくり目を開くと、微かな笑みを浮かべた森下くんと目があった。その森下くんの周りを、白いモヤが囲んでいる。  これは湯気? いや、違う。  そう認識する前に、視界全体を透明な膜のようなもので徐々に覆われていった。  ふら、と頭が傾くと、すぐに森下くんの慌てた声が鳴り響く。 「て、店長ーっ! しっかりしてーーっ!」  * * *

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