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目が覚めた時、其処は血の海だった。 俺の首を絞めた後、手首を切ったのだろう。 白くなった顔は血の気がなく、虫の息だった。 「すみません。救急車をお願いしても宜しいですか?はい。住所は」 律儀に病院に電話をしてしまう俺は甘いのだろうか。 でもあんなにも俺を愛し求めてくれた雨音を俺は本気で嫌いにはなれなかった。 病院に着くなり俺も軽く治療して貰った。 雨音は集中治療室に連れられたが、そのまま意識を取り戻す事はなかった。 治療が終わり、眠ったままの雨音。 今では血色も良くなり、まるで唯眠っている様にしか見えない。 あれから数日後、雨音の胎内にあった俺の種は無事役目を果たしたらしい。 雨音は眠ったまま妊娠した。 中絶はさせなかった。 どんな形であれ、生命を奪うのは嫌だったからだ。 俺に逢いに来た操の両親は雨音を見ると涙を流した。 てっきり恨んでいるのかと思いきや逆だった。 操は雨音を恨んでなんかいなかったのだ。 幼稚園の時、手が滑って同じ組の女の子の画用紙を汚してしまったのがきっかけ。 今迄仲良かった友達も含めた沢山の女の子達から見放された。 その後は誰も友達が出来ず、いつも1人寂しく本を読んでいた。 そんなある日初めて友達が出来た。 倭京雨音くん。 途中からツンツンした態度を取る様になったけれど、いつも側に居てくれた。 だけど、それを快く思わない人は沢山居た。 雨音くんは綺麗な顔をしていたから人気があった。 そんな人が苛められっ子なんかと一緒に居て良い筈がない。 図々しいんだよ、離れろよ。そう言われ暴力を受ける様になった。 バレたら心配される。 それが嫌だったから必死に隠した。 けれど結局バレてしまって、雨音くんは 「ごめんな」 謝るとそのまま、二度と側に来なくなってしまった。 その後は、雨音くんにも見放された憐れな奴ってレッテルを貼られて前よりも苛められる様になった。 けれど、雨音くんを恨んだ事は一度もない。 雨音くんだけが自分に笑い掛けてくれた。話をしてくれた。一緒に居てくれた。優しく心配してくれた。 雨音くんが大好きだった。 操の母親から聞かされて頭が混乱した。 操と離れた雨音は暴力的になったが、それは一部の人間にだけだった。 雨音はあの時操を苛めた人達のみ限定で復讐をしていた。 苛めをする原因を聞かれても、気に食わなかったからとしか言わない。 それが原因で雨音は意味もなく人に暴力を振るう問題児として周囲に認識された。 その為学校側からも生徒からも敬遠され、いつも1人だった。 何度も苛めと暴力沙汰で注意を受け、停学も繰り返した。 嗚呼、雨音は嘘なんかついてなかったんだ。 何度も信じて欲しい。泣きながら懇願された。 頭に血が上って、何も信じられなかった。 今更悔いても遅い。 雨音を追い詰めたのは俺。 あんなに好きだって言ってくれたのに、全身で求めてくれたのに。 何故あの涙を演技だと決め付けたのだろう。 なぁ、雨音。 目を覚ましたら、もう一度だけチャンスをくれないか? お前を知りたい。 きちんと向き合うよ。だから、早く目を覚ませ。 「雨音」 ふわり優しく髪を撫でると 村主、声が聞こえた様な気がした。 それから約10ヶ月後、帝王切開で雨音は子供を産んだ。 凄く綺麗な顔立ちは、雨音に似たのだろう。 見せてあげたい。 だが、まだその瞳は開かない。 なぁ、雨音。お前に話したい事が沢山あるんだ。 もう一度側で微笑んでくれないか? 綺麗な寝顔にそっと近付き 「雨音。愛してるよ」 俺は唇を重ねた。

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