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第11話
そして月曜が来る。
俺はいつものように出社しようとしていた。今日からまた『東雲さん』にビシバシしごかれる一週間が始まるのだ。別段キツイとも思わないけど、まあそれなりに気合を入れて、会社の入り口まで来て。
「う」
入り口のドアに、蛾が止まっているのに気付いて、俺は固まってしまった。
しばらくドアと睨み合っていると、
「どうした、入らないのか」
と、後ろから声をかけられて、俺は飛び上がりそうになった。振り返ると、眼鏡をかけた悠が立っている。
「あ、あ、えと、おはよう、ございます……」
そうだ、会社ではちゃんと敬語で返さないとな。挨拶をして、それでも俺は動けないから、悠は怪訝そうな顔で俺を見ている。
「? 先に行くぞ?」
そう言って悠が入り口のドアに近づくと、止まっていた蛾が飛んだもんだから、俺は「ひい!」と悲鳴を上げて悠の背中に縋り付いて隠れてしまった。
「……」
「……あっ、あ、すいません……」
「……虫、苦手なのか?」
悠が俺の顔を見て言う。俺も「は、はは……」と笑って頭を掻いていると、悠は僅かに笑って言った。
「いつも余裕そうなのに、そんな顔をすることもあるんだ」
ふふ、と笑うのが可愛くて、俺もつい笑って、「東雲さんもそんな風に笑ってくれるんですね」と返すと、悠はスッと真顔になって会社に入ってしまった。
失言だったかな。まあ怒られないからいいや。でも、会社でもあんな風に素の表情を見せてくれるのは、いい事だ。
俺は嬉しい気持ちになりながら、悠の後を追った。
それからも毎日、悠は鬼上司だった。
あれができてない、これができてない。指摘はもっともだけど、言い方がキツイ。近くで聞いてる同僚が、「頑張って」とお菓子をそっとわけてくれる程度には。
でも俺はあの、とても素直で可愛い悠を知ってるから、たまにニヤニヤしてしまう。そんな顔を見て、何を考えているのかわかるんだろう。悠は一瞬困った顔をして、黙ってそっぽを向いてしまう。実に可愛いから、何を言われたって許してしまう。
みんなも悠の本当の可愛さを知れたらいいのに、と思う一方で、悠の素顔を知っているのは俺だけだという事実もたまらなく嬉しい。いずれ、悠がみんなにも愛されるようになればいいとは思うけど。
当面は、俺だけでもいいように思う。
俺は、悠のことが、好きだから。
金曜の夜になると、メールが届く。それが、合図だ。
『午後21時、駅の改札前、噴水の前で』
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