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第10話

 流石にやり過ぎたかなあ。  初めてのナカイキに震える身体を、リクエストにお応えしてめちゃくちゃに気持ちよくしてやったけど、そのうち悠は意識を飛ばしてしまった。よく考えたら、2回目のセックスなのにハード過ぎたかもしれない。  ぐったりした悠を綺麗にしてやってから、俺も疲れたから寝ようとしていた。すると悠が目を覚ましたらしくて、掠れた声で「ひやまさん……」と名前を呼んでくる。  怒られるかな、と思ったのに、彼が手を伸ばしてくるから、俺も可愛くなって抱き締める。子供のように甘えて擦りついてくるから、よしよし頑張ったね、と髪を撫でてやった。 「俺、まだ30歳の誕生日って経験してないから、わかんないけどさ」  話によると、あんまり嬉しいことじゃないらしい。だから、そんな夜にセックスがしたいと甘えてくるなら、よほど欲しかったのかもしれないし、そうして頭を真っ白にして考えたくなかったのかもしれない。悠の真意なんて俺にはわからない。  でも。 「俺は悠に会えてよかったと思うから、お誕生日おめでとうって言うね」 「……」 「それでさ、一人の夜って寂しいもんだから。またいつでも声かけてよ、悠」  悠の身体は好きだ。素直で、エッチで、俺に応えてくれて。勿論、悠のことも。彼がどういう人かなんて全然知らないけど、ベッドではしおらしくて可愛いじゃないか。  悠は眠いのかあんまり反応しなかったけど、最後に「はい」と小さく呟いて眠ったようだったから、俺も目を閉じた。  目を覚ますとすっかり朝で、悠はベッドに腰掛けてぼうっとしていた。片手でおなかを撫でていたから、なんとなく察する。  初めてナカイキすると、しばらくその感覚が忘れられなくなるとかなんとか。昨日の余韻が残ってるんだなあと思うと可愛くて、えっちだった。 「おはよ」  声をかけると、悠はのろのろと俺の顔を見た。やっぱり、『東雲さん』の雰囲気なんて欠片も無い。こっちが本当の彼なのかなあ、とぼんやり思う。 「今日休みだしさ。誕生日なんだし、良かったら一緒に何処か遊びに行かない? あ、悠がしんどくなかったら、あと他に予定が無かったらだけど……」  誘ったのはなんとなくだ。家に帰ってもつまらない休日しか待ってないし、それなら悠と親睦を深める方がずっと有意義だろう。悠は少しして、「はい……」とやっぱりぼんやりした様子で頷いた。 「え、いいの?」  本当に大丈夫? 再度尋ねると、悠は「帰っても、寝るだけですし……」と俺と同じようなことを言う。じゃあ、二人で何処かに行こう。なるべく負担はかからないように。 「何処か行きたいところある?」  悠のことは何にもわからないから、率直に聞いてみる。彼は少し考えて、「とりあえず、お腹減ったので、モーニングでも……」と呟いた。 「美味しいとこ知ってる?」 「ええ、そう遠くないところに」 「じゃあ、そこ行こう」  悠の頰にキスをして、服を着る。悠ものろのろとそれに従った。  悠が案内してくれた喫茶店でモーニングを食べながら、二人で色んな事を話した。悠はいい大学を出て、仕事一筋だったから、趣味らしい趣味も無いけど、こうして美味しい喫茶店を巡るのが好きだとか。  朝にするような話じゃないことも話した。  ホモである事に気付いたのは大学の頃で、それまでは女にとんと興味が持てないのは、魅力的な女性が居ないからだと信じていたらしい。なのに、たまたま見ていたテレビの男優を見ていたらドキドキしてきて、それでもしかしてと思ったそうだ。  それでネットで色々調べているうちに、実際にしたくなって色々やってみたものの、結局恋人もできず、セックスもできず、このまま死ぬまで童貞処女の独りぼっちなのかと思ったら不安で眠れなくなって、それでいてもたってもいられず、出会いの場を求めてしまったらしい。  それ俺だったからまだよかったけど、世の中にはもっとロクデナシいるんだから、もうしない方がいいよ。俺も大概だけど忠告すると、悠は「もうしません」と頷いた。  それで、檜山さんは? と聞かれても、俺にはどうにも答えようが無い。俺は中学の頃にはホモだと気付いてたから、色んな奴と寝ただけだ。一人の夜は嫌いだから、そりゃあもう。数えきれない男と。ただそれだけだ。趣味も男あさり。好きなことはセックス。 「……それでよく、出世できましたね……」  呆れた顔には少し『東雲さん』が現れてた。一応、こっちの支部に来たのは栄転なわけで、出世したことになる。 「上に立つ人ってのは、それだけ本質が見えてないってことでしょ。俺みたいな奴が認められるのに、東雲さんみたいな、真面目に仕事してる人の事はみんな遠ざけたりしてね。本当は東雲さんを大事にすべきだよ。ねえ」 「そ、そうは、言ってません。僕は、その、たしかに、嫌われても仕方ない人間ですから」 「そうかなあ。俺は嫌いじゃないけどね」  すると悠は、困ったように俯いていった。 「あ、あんまりそういう事を言われると、困ります」 「なんで?」 「……会社で、どうしていいかわからなくなるから……」 「したいようにしたらいいんだよ」  にっこり微笑むと、悠はやっぱり困ったような顔をして、目を逸らした。  こうして、一夜限りだったはずの俺達の関係は、続く事になった。

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