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三浦壮嗣の憂鬱 1

俺の憂鬱は第一志望の高校の入試直前に始まった。 中学の時まあまあ頭が良かった俺は偏差値の高いK高校を志望校に考えていた。 実際テストでA判定以下は無かったし、余裕だと高を括り、滑り止めの私立も受けなかった。 だが私立を受けなかったのは失敗だった。 高校入試の前々日、何故か俺はマイコプラズマ肺炎になってしまった。 いつ感染したのかは分からない。 塾か学校か登下校中か。 39℃の熱と咳が続き、感染予防の為俺は受験を受けさせて貰えなかった。 合併症に迄はならなかったが、異常な位長引いたソレ。 漸く回復した時には1ヵ月以上受験から日にちが過ぎていた。 その頃には定員割れの二次募集の高校は僅かしかなく、俺は渋々その中から一番自分の住んでるアパートから近い高校を選んだ。 K高校に比べると明らか低い偏差値の男子校。 噂によると女っ気がない為男に走る人が沢山居るらしい。 って、マジかよ。有り得ねぇ。 中学迄俺は女子にモテていた。 小学校での6年間と中学での3年間、ずっと学級委員してたし、成績は学年1位で通知表は主教科だけでなく副教科も全てオール5だったからだろうか。 毎日の様に告白されていた。 だけど一度も彼女は作らなかった。 理由は単純。 好きになれる女の子が居なかったからだ。 いや、顔面が悪かったとか理想が高いとかでは決してない。 可愛い子や綺麗な子沢山居たし。 運動神経良い子や頭の良い子も居た。 何が悪かったかと聞かれたら決して何も悪くない。 唯、誰も好きになれなかっただけ。 どんな女の子に告白されても全く心が揺れ動かなかったのだ。 初恋もせずに迎えた高校生活。 男子校な為、女子は居ない。 これは高校になっても恋愛出来ないな。軽く嘆きながら入学式の為に体育館に足を踏み入れた。 全く興味が沸かない長々とした先生達の話をBGMに見渡す生徒の顔。 入学おめでとう言われても全く嬉しくないし、寧ろ志望校受けれなくて残念でしたねにしか聞こえない。 これから宜しく言われても宜しくしたくないし、やる気も出ない。 中学迄だったら、ソコ余所見しないとか注意されたのだが、此処は全く違う。 殆どの生徒は話を聞かず、ザワザワ煩く話している。 頭の色もカラフルだし、ピアスやアクセ着けてたり、改造した制服や私服の人も居る。 なんかスッゴク自由だ。 俺此処でやっていけるかな? 軽い不安を抱いていたら 『ん?何だあれ』 物凄くモッサァーとした地味な奴が視界に入った。 背は俺より少し低いか同じ位。 全く手入れしていないボサボサの髪は中途半端に伸びている。 絶対に自分で切ってるだろソレ、と思える位毛先の長さはバラバラで清潔感がなかった。 伸びきった前髪の下に隠れ見えるのは黒い淵の眼鏡。 全く顔が見えなかった。 同じクラスだったソイツ。 教室で机に着くなり本を読み始めた。 下を向いたせいで余計見えなくなった顔。 どんな顔だろう? 何故か凄く気になった。 自己紹介で名前を知った。 鳴海千紗。 綺麗な名前。 それと声が好みだった。 耳に入った瞬間感じた心地好さ。 ずっと聞いていたいと思った。 休み時間 「鳴海」 声を掛けてみたが、本に夢中になっているのか全く気付かれなかった。 翌日から普通授業が始まった。 暇さえあれば観察したが、鳴海は誰とも話さず下を向き本ばかり読んでいた。 「なぁ、お昼一緒に食べね?」 昼休み、本を読んでいた鳴海に声を掛けた。 最初気付かれなかったが、ヒョイッ本を持ち上げてもう一度告げると 「え?」 鳴海は驚いたが 「行くぞ」 無理矢理立ち上がらせ屋上へ向かった。 教室と違い、風のある屋上。 其処で俺は初めて鳴海の顔を見た。 風のせいで動いた前髪。 眼鏡が見えた。 あっ、綺麗だ。 そう思った。 眼鏡越しに見えた鳴海の瞳は透き通っていて、凄く綺麗で惹き付けられた。 その日から俺は毎日休み時間毎に鳴海に話し掛けた。 最初は読書の方を優先したいのか余り相手にしてくれなかった鳴海だが、しつこい位毎日話し掛けてくる俺に観念したのか 「ったく、物好きだな三浦」 入学式から5日目、漸く会話をしてくれた。 凄く凄く嬉しくて、心が温かくなった。 それからはあっという間だった。 あっという間に俺は鳴海と親友になった。 あんなに心を閉ざしていたのが嘘の様に、鳴海は俺に心を開いた。 移動教室の移動中も休み時間もお昼ご飯も放課後も全部学校に居る間は一緒に居た。 人見知りなのか俺以外どうでも良いのか、鳴海は俺にしか話し掛けないし、近付かなかった。 一緒に居ると楽しい。 側に居ると嬉しい。 鳴海が笑うと幸せを感じる様になっていた。 これは本当に友情なのだろうか。 鳴海以外要らないって思う。 鳴海にも俺以外を求めて欲しくない。 もし鳴海が俺以外を見たら、多分俺は寂しくておかしくなるかもしれない。 いつの間にか俺は鳴海に執着し、依存していた。 毎日が幸せで楽しくて充実していた。 なのに、高校生活が始まって2週間が過ぎた時だった。 俺の幸せは呆気なく終わりを迎えた。

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