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三浦壮嗣の憂鬱 4

大学は高校と離れている為、以前住んでいたアパートからもかなり遠い。 不便だったので前のは引き払い、大学近くに移った。 鳴海も最初は頑張って自宅から行き来していたが、身体的に疲れてきたらしい。 一緒に住む?俺の誘いに簡単に乗った。 マジか、スッゲェ嬉しい。 まさか一緒に住める事になるとは微塵も考えてなかった俺にとって、これはある意味転機だった。 大学だけでなく家でもずっと一緒。 それは俺の理性を容易く破壊させた。 「ん、はぁ……ん」 何時でも何処でも人目が無い所を見付けると鳴海に触れた。 鳴海はまるで麻薬みたいだ。 触れれば触れる程好きになる。 毎日キスして夕食後一緒に入浴してからは早朝迄抱き合う。 その後腕の中で安心して身を委ねながら熟睡する鳴海に 「愛してるよ千紗」 口付けながら囁く。 起きてる時は言えない。 だから止めどなく溢れ出る愛を告げるのは、いつも鳴海が寝ている時だけ。 人前では唯の親友として振る舞った。 ホモだと疑われて鳴海に迷惑が掛からない様にカモフラージュで彼女も作った。 仮の彼女と言えども少しは期待した。 もしかしたら好きになれるかもしれない。 鳴海と結ばれないのなら、一生苦しみ続けるのなら、一層の事女性を好きになって結婚した方がある意味楽だ。 だが、心身共に深く迄鳴海で染まってしまっている俺に鳴海以外の人間はダメだった。 全く魅力を感じない。 可愛い、綺麗とは感じるが、鳴海には勝てない。 軽いハグさえ出来ないのだから、キスやそれ以上なんて出来る筈がない。 全身が心が拒絶してしまう。 最初は大切にしたいからと誤魔化しても全く触れられなかったらフラストレーションが蓄積するのだろう。 私の事好きじゃないでしょ?見透かされ振られた。 次こそは大丈夫。 絶対好きになれる。 少しでも鳴海に似ている女性から告白されたら付き合った。 だが、全員同じ結果で終わってしまう。 向こうから告白されて、向かうから振られる。 いつも1週間と続かない為鳴海に理由を聞かれた。 本当に好きな人としかキスもS〇Xも出来ない。彼女達はその領域に達せれなかっただけ。 さぁ、ここ迄言ったら流石に気付くだろう。 彼女とは何も出来ないのに鳴海とは毎日触れ合っている。 好きな人としか出来ない、それはお前が好きだからしているって言ってるんだぞ。 頼む、気付け。気付いてくれよ鳴海。 だが俺の願いも空しく 「皆バカだなぁ。なんでこんな良い男振るんだろう。勿体ない。マジ理解不能。俺が女だったら絶対三浦選ぶ。スッゲェ良い奴だもん。触られないから振るなんて、そんなに飢えてんの?女子って。肉食系ってヤツ?怖いな。次は清純派と付き合ってみ?」 鳴海は親友の顔で俺を励ました。 嗚呼、やはり俺は何時まで経っても親友でしかないんだな。 泣きそうになる。 だが、手放すつもりは更々ない。 心が手に入らないのなら、せめて身体だけでも手に入れたい。 心身共に依存させる。 そう決めた俺は今迄以上に鳴海を甘やかす事にした。 何をするにも側に居ないと生きていけなくしてあげるよ?鳴海。 手始めに呼び方を変えた。 「千紗」 普段は名字だが、抱く時だけ名前で呼ぶ様にした。 人目が無い所では今迄していた軽いハグとキスだけでなく、服の上から沢山愛撫した。 勿論服は脱がさないし、直接触らない。 だが何度も続けると鳴海は焦れたのか、もっと触って欲しくて堪らないって顔になっていった。 常に側に居て、互いに何か用があって呼ばれた時も連れて行ったし着いて行った。 外では人目のない時限定、家ではずっと腕の中に抱く。 移動中は抱き上げ、食事の時もそのままの状態で俺が食べさせる。 箸もスプーンも持たせなかった。 勿論人前では全て自分でさせていたが、それ以外ではさせなかった。 全ての行動を代わりにした。 流石にトイレは介護みたいで可哀想だからしなかったが、お風呂や着替えは全て俺がした。 まぁもし頼まれたら喜んでするよ? 鳴海の汚物なら何も汚く感じないから。 最初は 「最近のお前過保護過ぎだから」 苦笑していた鳴海だが、毎日続けていると違和感を失くした。 「三浦、抱っこ」 自分から俺の腕を求め、甘える。 「ね、今日はカジュアルなのが良い」 着る洋服も俺がコーディネートする。 「美味しい。次アレ食べたい」 食べさせて貰う為に自ら口を開き、次に食べたい物を教える。 まるで介護か親子みたいにも見えるが、毎日続けると鳴海は完全に俺に依存した。 ここ迄来たらあと少し。 「ねぇ、鳴海。名前で呼んで?」 呼び方を変えさせた。 「俺が居る時は良いけれど、俺が側に居ない時は誰とも話しちゃダメだよ?」 言動を制御し管理した。 砂糖水の様に甘い甘い液体に浸らせて、俺なしでは生きていけなくしていく。 そして俺しか頼れる人間が居ない状態を作り上げた。 「壮嗣」 呼び方も名字から名前に定着した。 うん、もう良いかな? 俺は一度軽く鳴海を突き放してみる事にした。 「ねぇ鳴海。今日告白されたんだけどさ、スッゴク可愛かったんだぁ。付き合ってみようかな?」 「ん?良いんじゃない?」 どうせ今回もすぐ別れる、そう思っているに違いない。 「俺あの子なら抱けるかもしれない」 勿論嘘だ。今回もハグさえ出来ない。 「俺さぁ、性欲強いじゃん?勿論避妊するけどさ、もしかしたら妊娠させちゃうかもね。そしたら一緒に居れなくなるかも」 「………………え、嘘?」 どんどん真っ青になっていく顔。 あと少し。 あと少しで堕ちるかな? 「ねぇ、それでも良いの?俺が他の人と付き合っても……お前はそれで良いのか?」 潤んでいく瞳。 嗚呼、堪らない。 早く早くおいで? 俺の所に堕ちておいで? 「お前が決めて?鳴海が嫌だって言ったら断るよ?言わなかったら付き合う。彼女と付き合ったら今迄みたいにはいかなくなるよ?キスもS〇Xも彼女とする。そしたら鳴海には一切触れなくなるね。ねぇ、鳴海はそれで大丈夫?生きていける?」 ハラリ流れ落ちた雫。 一度溢れ出した涙は止まらなくなって、ポロポロポロポロ零れる。 「ねぇ。言って?鳴海。本当はもう気付いてるんだろ?」 本来親友同士はキスしない。それ以上なんて以ての外だ。 言動の全てを管理されても嫌じゃない。 側に居て当たり前の存在。 そして、自分以外に触れて欲しくない。 もうここ迄心と身体が変わってしまったら分かるだろ? 鳴海、お前はもう、俺なしじゃダメになっているんだよ? お前の心はもう、俺に支配されたくて服従したくて縋り付きたくて堪らなくなっている。 「千紗」 甘く優しい声色で名前を呼ぶと 「………嫌だよ壮嗣。付き合っちゃヤダ。側に居て?俺以外に触れないで?俺しか見ちゃ嫌だよ」 泣きながら必死にしがみついた。 凄いな、鳴海。想像以上だ。 可愛くて堪らない。 「千紗。俺はお前が好きだよ。初めて逢った時からずっとお前だけを見てきた。今迄もこれからもずっとお前だけを愛する。なぁ、千紗。お前は俺の事どう思ってる?」 積年の想いを告げる。 あと、少し。 「……っ、あ、壮嗣は、親…友……だよ?」 「本当に?本当にそれだけ?」 「…………っ」 ほら思った通りだ。動揺した。 「確かに千紗は親友だよ。でもそれ以上に俺は千紗を愛してる。恋人になりたいって思ってる。ねぇ、千紗は違うの?」 ゆらゆら揺らめく瞳。 「でも、でも俺。青葉が居るもん。壮嗣は………親友…だもん」 「なら、他に親友作ったらその人とも寝れるの?」 フフッ、凄く動揺してるな。 「………寝れない」 「でしょ?俺だからだよ?俺だから千紗はキスもハグもそれ以上も出来る。もう、分かるよね?きちんと考えてみて?逃げないで」 「………………」 完全に黙り込んでしまった鳴海。 壊れた蛇口の様に止まらない涙。 ねぇ、ずっと待ってたんだ。 ゆっくり待つよ。だから教えて?お前の本当の気持ち。 「……………き」 「ん?聞こえないよ。もう一回言って?」 本当は微かに聞こえた。 だけどきちんと大きな声で聞きたくて答えを促す。 「……好…き。壮嗣が……………好き」 嗚呼、やっと聞けた。 聞きたくて堪らなかった。 ずっとずっと欲しかった。 その一言がずっと欲しかったんだよ鳴海。 「愛してるよ千紗」 俺はその日、漸く鳴海を手に入れた。

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