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01.プロローグ

 ――ある夏の暑い日、いつもの夢を見て目が覚めた。 最近、繰り返し何度も何度も同じ光景が浮かんで見える、夢。 「はぁ……こんなこと考えたくないのに、なんで夢にまで見るんだよ……」 小池春太(こいけはるた)はここ最近、同じ夢を見続けていた。 志望校であったいい学園に入り、きちんと授業も受けて、それなりに友人も多くなり仲良くしている。しかし、全てが順風満帆に見えてはいても、ひとつだけ叶っていない夢があった。 夏休みに入る直前、春太は幼馴染みであり親友の、長谷川智宏(はせがわともひろ)と一緒に学園からの帰り道にいた。 春太は身長がさほど大きくなく165cmでひょろっとした体型、智宏もあまり変わらない168cmで細身というコンビである。ずっと一緒に育った二人の家は隣同士で、鍵っ子の春太の家は二人にとって一緒に住んでいるに近いほど二人はいつも一緒にいた。 ただ、夜はさすがに別々で、智宏は寝る時間には帰ってしまうという日々だった。 「春太は夏休みバイトとかすんの?」 「したいんだけど、どういうところがいいか迷うんだよね……」 「そっか、じゃあさ! 俺と一緒にバイトしない?」 「え……? 何のバイト?」 「なんかさ、山にあるレストランで短期住み込みのバイトあって、料理とか出す接客業らしいよ?」 「住み込みなんだ……、智宏はもう応募したの……?」 春太はお金は欲しかった。あまり裕福ではない家庭だったのもあるが、欲しくて堪らないゲームなどは手に入っていないからだ。 「いや、昨日チラシ見つけてさ、春太がいいなら一緒に行きたいって思ってさ」 「チラシ今持ってる?」 「あるよ! これこれ!」 智宏は、いそいそとバッグの中から少しヨレた求人ペーパーを出し、春太に渡した。 そこには、なんとも魅力的な文字が躍っていた。時給ではなく期間制で、住み込みは夏休みの中で20日間のみ。バイト中は光熱費もいらず、食事と自由に使える部屋も付くらしい。……約3週間で50万円。春太はその金額に驚きを隠せず、目を丸くした。その金額があれば、今欲しいものは全て手に入る。 智宏は楽しそうにせっつく。 「めっちゃ良くない? これ、一緒に行こうよ! 一応電話して内容聞いてみたんだけど、セレブが使うような高級なところなんだってさ。だから、面接よりも容姿が重要らしくって、顔写真と全身写真が1枚づつ必要だって言ってた」 「ん~……、でもなんか3週間も家に帰れないって怖くない……?」 「……ん~……、でも、春太と一緒なら俺は怖くないけど……」 「……お金は欲しいけど、大丈夫かな……」 「なぁ、一緒に行こうよ! 二人で100万円だぜ?」 「……そっか、そしたら二人で欲しいゲーム買いまくってゲーム三昧できるね」 「まぁ、写真送っても受からないことだってあるしさ、もしどっちかが落ちたらバイトはまた他のところ探そうぜ!」 お金が欲しかった春太は、このやりとりを経て、夜になってから親に夏休みは智宏とバイトに行きたいと告げることにした。ただ、特にバイトの件は除いて考えても、智宏とずっと一緒に過ごしたいという気持ちも大きかった。 そう、春太は智宏に恋をしているのだ。自分自身がゲイなのか何度も考えたが、初恋は幼稚園の女の先生だったし、春太は自分自身がよく分からなくなっていた。 ただ、気持ちに正直になれば、智宏に抱きしめられたりキスしたりしたいという考えが、頭をグルグルする。これが、毎晩のように見る夢の正体だった。いつも見る夢は、智宏とエッチなキスをしたりして、そのまま扱きあって射精する夢だ。この夢のせいで、何度夢精したか分からない。 もし、バイトに受かったら、毎日智宏の隣で眠れるかもしれない。 春太はそんな希望を胸に、これから写真を撮りに行くという智宏と一緒に、歩き出す。 そして次の日、春太と智宏はすぐにお互いを撮り合った写真を履歴書に同封し、夏のバイトに応募したのだった。 ~つづく~

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