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02.合格と知らない土地への道
応募して3日が経ち、春太と智宏はお互いスマホが気になって仕方が無かった。
二人は、お互いの親に二人一緒に旅行に行くと説明し、許可を得た。春太の家は普段から鍵っ子だったのもあってすぐに許可が出たが、智宏の親はさすがに学園生になったばかりの二人での旅行には最初OKをしなかったが、二人でなんとか何回もお願いしてなんとかOKを貰った。
どちらかが不合格である可能性があるだけに、必ずどちらかが落ちたら違うバイトをしようと決めてはいたが、内心はお互いドキドキしながらバイト先の返答を待つ日を送っている。春太は、智宏とワクワクしながら待つという、ちょっとだけ二人だけの想いを共有できていることにも嬉しさが募った。
待つこと4日目、学校帰りの二人はいつもと同じく春太の部屋でダラダラと過ごしていた。そして、パペコアイスを分けて二人で食べながら日常会話を楽しんでいた時、春太のスマホに知らない携帯電話から着信があった。春太は慌てて食べていたアイスを口から引き抜くと、恐る恐る通話ボタンを押した。
「も……もしもし……」
「もしもし、華屋 リゾートの人事担当の富田と申しますが、こちら、小池春太くんの携帯でお間違いありませんか?」
「あっ……、はい!」
智宏は小声で(バイト先の人?)と聞くと、春太はうんうんと何度も声には出さず頷いた。
「アルバイトの件でお電話させて頂きました。今少しお電話大丈夫ですか?」
富田と名乗るその男の人は、とても丁寧な口調で話しかけてくる。
「大丈夫です!」
緊張のあまり、春太は相手には見えていないのに、座り直して正座をした。
「それでは、お話致しますね。まずは、結果ですが……合格となります。一緒に応募された長谷川くんも合格となりますが、職務が違うのですが、大丈夫でしょうか?」
「あ……っ、本当ですか!? えと……今、智宏が横にいるので、一緒に電話を聞いたらだめですか?」
「あぁ……、それでしたら通話をスピーカーにしてお二人でお話ください」
春太は急いで通話のスピーカーボタンを押して、智宏に声をかけた。
「二人とも合格だって!!」
「マジで!?」
「しーっ、聞こえてるから……バイト先の富田さんっていう人……」
富田はこのやりとりが聞こえており、少し笑みが零れるような声音に変わった。
「ははは、仲が良いんですね……、お二人とも合格になります。ただ、二人の働く職務……、あ、仕事内容の方が分かりやすいかな?……が、違うのですが、大丈夫ですか?」
智宏も緊張からか座り直し、正座をしながらスマホに声をかけた。
「えと……、長谷川智宏です。合格、有難うございます。それで、二人の仕事が違うというのは、どんな仕事ですか?」
「はい、小池くん……あ、緊張されているので、二人ともお名前で呼んだ方がいいかな? ……春太くんはオーダーを受けるお客様から送られる花の回収係で、智宏くんは春太くんが受け取った花のカウント係になります。ですので、智宏くんは直接の接客は最初はありませんが、お客様が望む場合には春太くんと同じように花を回収して頂きます。給料は二人とも基本給は変わりませんが、花の回収数によってバイト代は上がります」
「花……?」
二人は目を見合わせたが、とにかく合格した嬉しさから二人はつっこんだ内容は聞かず、二つ返事でバイトに行くことにした。
「……では、最後になりますが、こちらに向かうには交通費もいりません。こちらから迎えを出しますので、一週間後の7月26日、午後14時に春太くんの家の前で待っていて下さい」
「わ……わかりました!」
「それでは、当日こちらでお待ちしております。アルバイト頑張って下さい。失礼します」
富田からの電話は途切れ、二人は暫くスマホに目を奪われていたが、徐々に嬉しさが募ってお互い抱き合った。
「やったーーーーーーーーーーーーー!!」
全く知らない土地に行くのはお互い不安があったが、それよりも何よりも既に二人は、お互いが50万円手にしているような気持ちになっていた。
それから一週間後、二人は言われた通りに旅行用のリュックを背負って迎えを待っていた。
お迎えの今日は、晴れ渡る日差しが強く、少し立っているだけでも汗が滲む。実際に外に出て待っていたのは10分くらい前からだが、じりじりと照りつける太陽は、あっという間に二人の体力を奪ってゆく。暫くすると、待ち合わせ時間ピッタリに黒塗りの車が現れ、運転手が外に出てきた。
ビシッとスーツで決めた大人の男は明るい笑顔で二人に声をかける。
「小池春太くんと長谷川智宏くんですね?」
二人は一気に緊張してうわずった返事をする。
「は……、はい……っ!! 宜しくお願いします!」
「まぁまぁ、そんなに硬くならなくていいですよ。さぁ、車に乗って」
男は後部座席のドアを開けると、二人に乗るように促し、自分も運転席に戻って腰掛けた。車の中はクーラーが効いており、とても涼しい。二人は思わずキンと冷えた車内の感想を口に出す。
「すっごい車の中きもちぃー」
「生き返る~」
運転手は大きく笑うと、アクセルを踏んだ。動き出した車の外は、見慣れた風景が滑るように飛んでいく。暫く二人は黙って風景を見ていたが、知らない景色が現れ始めると、春太は小声で智宏に聞いた。
(バイト先ってどこ?)
(チラシにはどっかの山って書いてあった……)
(どっかの山じゃわかんないよ……)
どんなに小声でも音楽もかかっていない車内では、その会話は運転手に丸聞こえだった。
「軽居澤 というところの近くで、山の麓の一角になります」
二人は運転手が急に答えたので、慌てて頭を下げ、春太が先に口に出して謝った。
「よ……、よく分かってなくてすみません……」
「いいんですよ。まだ学園生になったばかりで、知らない土地に行くのは不安もあるでしょう。到着までは2時間半ほどかかりますので、私とお話ししませんか?」
運転手は飛ばしすぎることもなく、安全運転でミラー越しに優しく微笑んだ。春太と智宏は申し出を受け取り、暫く運転手と雑談を続けていたが、そのうち智宏は眠くなってしまったようで春太に寄りかかって眠りに落ちた。
春太はあまり声を大きくしないように、運転手にそっと聞いた。
「なんか……、花を受け取るって聞いたんですけど、接客で花を受け取るって実際どんな内容なんですか?」
運転手は少し考えたような間があったが、春太に内容を話し始めた。
「ん~……、このバイトはね、容姿がまず良くないとできない仕事なんだよ。写真を先に送れって言われただろう? 今回のバイトは君たち二人だけだと私は聞いてるよ」
「僕たちそんなに容姿がいいわけじゃないと思うんですけど……」
春太は眉をハの字に曲げ、なんだかよく分からないという面持ちで考え込む。
「いやいや、君たちはすごく魅力的だよ。でも、きっと春太くんの方が忙しくなるんじゃないかと私は思う」
春太は余計に難しい表情になり、ハテナでいっぱいになった頭を右に左に傾げながら考えている。
「ははは、そういって考えこむ仕草も可愛いもんだ」
「可愛いとか……、僕男ですよ?」
運転手に可愛いと言われ、春太は咄嗟に声が大きくなった。
「そうだったね、すまなかった、ははは」
「ん……」
智宏が起きそうになってしまった。春太は急いで声をまた小さくすると、バイト内容についてまた深く聞き始める。
「僕が働くのはレストランって聞きましたけど、どんな料理があるんですか?」
「料理は前日に決まるんだ。和洋折衷で、前日に多かったリクエストから決まるんだよ。まぁ、コース料理っていう感じかな」
「なんか……僕、全然高いところで食べたこともないし、接客が不安です……」
「大丈夫だよ、春太くんなら少しそそっかしい位でも充分お客さんは満足できるだろうし、接客に不満があればその場でお客さんが教えてくれるよ」
「その場で、ですか……?」
春太はそれを聞き、テーブルでものすごい勢いでお客さんに怒られている場面を想像して、焦ってしまった。
「ははは、大丈夫大丈夫」
運転手は笑いながら安全運転を続ける。暫くすると、春太もウトウトしだしてしまい、そのまま眠りに落ちた。
~つづく~
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