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一章
「各務《かがみ》君、もうデータ入力は済んだのか?」
「済みましたよ、とっくに。皐月《さつき》課長」
と、声をかけてきた背後を振り返る。
「そうか、おまえは本当に仕事が早いな。ならこれも、追加で頼んでもいいか?」
黒のストライプのスーツの上下に、シックなダークレッドのネクタイを合わせた格好を見つめた。
「……今日も、いいコーディネートですね」
そう伝えると、「そうかな…?」と上司は照れたように笑った。
首の後ろに手をやり困ったようにも笑うその表情に、(その顔だよ…)と感じる。
そんな顔して、俺に姦られたいのか……そこまで思って、
「ああ、はい早急に片付けますんで」
と、ファイルを受け取った。
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