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一章
他の仕事を片付けつつ、皐月課長から請け負った入力をしていたら、思いのほか帰りが遅くなった。
「くっ…そ」小さく悪態をつき、ようやく終わったとばかりにイスを立った。
(残業とか、やってられない…)ぶつぶつと口の中で毒づきながらエレベーターホールへ向かうと、
そこには、あの皐月課長が先に待っていたーー。
「……課長」
呼びかけると、
「…あ、各務君か? 今から帰りか?」
と、顔を向けた。
「ええ…」と、頷く。
「……悪かったな、こんな時間まで。俺のせいだろ?」
気をつかって苦笑する上司に、お人好しもいい加減にしろと思う。
普段なら、愛想笑いの一つでも浮かべて、
「いえ、課長のせいではないですから」
とでも言うのだが、その時はなぜか無性に彼の言動にイラついていた。
「……そうですね、あなたのせいですよね」
苛立ちに任せて口にして、あっと思った。
慌てて口を塞いだ自分を、皐月課長が驚いたように見ていた。
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