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七章
その手に握られたナイフを見て、愕然とする。
「……これで俺を傷つけて、支配すればいい……」
掴ませようとしてこちらへ向ける柄を、
「……何を、言ってる……」
はねつけて、つっ返す。
「……傷つければ愛せるのなら、これで俺を痛めつけて……恐怖で屈服させろ……血が流れれば、おまえも本望だろう……」
「……何を……バカ、か……」
ナイフの柄を無理やりに俺に握らせて、
「……刺せ」
低く宥めすかすように、声が落とされる。
「……そうすれば俺は、おまえを畏《おそ》れ受け入れられない。だから……」
「……バカなのか、貴様は……」
小刻みに震えるナイフを掴んだ手が、彼の肌に誘《いざな》われる。
その鋭い刃先から目を離せないまま、
ナイフは寸前まで迫った……。
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