6 / 6

完結編:終

 ひたすら無言で歩きつづけ、部屋に入るなり押し倒された。  背中を床にぶつけて呻き声を上げたけど、秋山の耳には届いていない。がむしゃらに俺のシャツを捲り上げて肌を撫で、逃すまいと力で押しつける。  俺の上に圧し掛かるその姿は矢張り獣みたいでちょっと笑えた。忙しなく動く秋山の手を見つめながら、俺は小さく呟いた。 「好きだ」  途端、手が止まる。  被ったままのキャップをそっと外してやると、サラリとした前髪の隙間から秋山の切れ長の目が俺を見ていた。 「お前、俺から言わせたかったんだろ?」  手に取ったキャップをポイとその辺に放ると、少し離れたところで乾いた音がした。  自由になった手で秋山の頬に滑らせると、そのまま腹筋だけで上半身を持ち上げて唇を重ねた。軽く触れるだけの、一瞬のキス。 「お前の毒に慣れ過ぎて。俺、もう毒無しじゃ生きてけねぇみたい」  俺が笑うと秋山は大きく目を見開いて、そしてバタリと俺の上に倒れ込んだ。立て肘では耐えきれなくて、二人して床に転がる。 「ぅえっ! おっも!」 「アンタって人は……もう、ホント敵わない」 「お互い様ってやつだろ」 「それは否定しませんけどね」  はははっとお互いに声を合わせて笑って、また、キスをした。優しくて、柔らかいキスだった。  秋山の心が凪いだように思えて、また無性に泣きたくなった。  きっと本当は、「好き」なんて綺麗な気持ちじゃない。  もっと歪んでて、醜いものかもしれない。  それでも良いから、依存でも良いから、俺はこいつが良い。  こいつと…秋山と一緒が良い。  裏切らない保証が無いのは秋山だって一緒だけど、でも、コイツは余りに俺しか見えてなさ過ぎて…俺に疑う余地すら与えないのだ。 「言ってくれるとは思ってませんでした」 「好きだよ」 「はい」 「好きだ」 「……はい」 「お前が好きだよ、秋山」  紅くなる顔が面白くて繰り返してやると、秋山の顔が遂に爆発した。 「ッ、も…もうっ!!」 「はは!んぐっ…、ン…」  もう誰も好きになりたくない。  そう思う程大きな傷を負わせたのは間違いなく秋山なのに、その傷は今、傷付けた本人に癒されている。 「あっ…ぁ、」 「惣さんはもう、俺のですからね」 「お前も…俺のだかんな…」 「当たり前です」  ある意味、秋山に責任を取らせることは正当な流れなのかもしれない…なんて甘い考えを、俺は。  ―――2時間後 「もっ! 秋山ぁ!! あっも…しつこっ、ぁあ"っ!」 「まだまだ…全然足りない! 何年分溜まってると思ってるんです…かっ!!」  俺はこの先永遠に… 「ぃぎッ!? ぁあっ、バカっ、もっ抜けよぉ! あっ、ひんッ!!」  後悔し続けることになるのだった。 「秋山のっ、バカヤロォオッ!!」 END

ともだちにシェアしよう!