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ビーチはいい。
ナンパし放題だからだ。
周りを見渡すと、際どい水着の女性たち。
白人、黒人、アジア系。
色んなタイプの女が居る。
それらをぐるりと見渡して、チョイスするビーチを間違えたかもしれない、と春日 は歯噛みした。
隠れ家風のこのビーチは、ヤり目的の女が多い、とネット上で密かに話題に上っており、それを真に受けた春日は、友人の岡本 とともに奮発してここに宿をとったのだが……。
確かに、ビーチチェアに寝そべっている女たちはレベルが高い。
しかし彼女たちの隣には、すでに男の姿があったのだ。
明らかにカップルか夫婦である。
ひとりで横たわっているのはガタイの良い男ばかりで……春日はため息を零した。
ナンパをするために磨き上げた肉体が、このままでは出番がないと泣いている。
春日の隣で、同じく今回のナンパは無理そうだと諦めた岡本が、晴れ渡る青空を仰いで首を振っていた。
「んだよ、ガセかよ……」
「ヌーディストビーチだっつー噂もあったのにな」
「どこがだよ。めっちゃ水着着てんじゃん」
「でも全裸よりもビキニの方がエロいよな~」
「ヤれりゃあどっちでもいいって」
二人で埒もない会話をしながら、ナンパは諦めてホテルの部屋に戻ろうか、と踵を返したそのとき。
燦燦と照り付ける太陽の下、ひとりの男性が歩いてくるのが見えた。
すんなりと伸びた足で、白い砂を踏んで歩くそのひとは、なぜかやけに人目を引いた。
美形だ、と春日は思った。
長めの前髪を軽く耳にかけ、伏し目がちで歩く姿は、間違いなく男性なのに。
なんというか……したたるような色気があった。
紫色の長袖のパーカーの前をしっかりと閉めているせいで、足の付け根までを覆ったその下がノーパンのようにも見えて……男相手なのにドキドキする。
岡本もポカンとしたように、そちらを見ていた。
ふたり揃ってあまりに凝視しすぎたのだろうか、彼が足を止めた。
強い日差しのせいか、頬がわずかに紅潮して見える。
彼と、春日の視線が交わった……気がした。
正面から向かい合う形となった彼の、その手が。
不意に、なめらかな動作で、ゆっくりと持ちあがった。
指が、パーカーのファスナーを摘まみ。
それがじわじわと下げられてゆく。
ごくり、と春日の喉が無意識に動いた。
ジイイイィっ、という音が、聞こえそうなほど、徐々に下げられるファスナーに注目してしまう。
スライダーが最下部まで下ろされた。
連結部分が外れ……彼の手が、そっと、パーカーの前を左右に開いた。
春日と岡本は、同時にヒュっと息を飲んだ。
紫色の生地の下には、肉感的な体がある。
そしてその肉体は、半裸であった。
ここはビーチなので、ほぼ全員が半裸だ。
現に春日と岡本も海パン一枚の格好である。
しかし彼は……そういう『ふつうの恰好』とは違っていた。
しなやかな筋肉をうっすらと纏った、セクシーと評して間違いのない体つき。
その胸の辺りは隆起しており、むっちりとしたそこが、なんだか女性のように官能的に見える。
その彼の、さほど日焼けしていない肌に、赤い……紐のようなものが這っていた。
股間から、Vの字を描いて伸びるそれは……ビキニサスペンダーとでも呼べばいいのだろうか……伸縮性のあるただの幅の狭い紐で……おまけに陰部が丸出しになっているではないか。
Vの一番下の部分に潜らせているペニスは、布などで覆われることもなく、しかも、パイパンだった。陰毛が一本もない。つるつるだ。
おまけに、肩にかけて伸びるサスペンダーはちょうど乳首の上を通っていたが、ぷっくりとしたその形が露わになっている上、乳輪部分が隠れていない。
全裸よりもいやらしいそのビジュアルに……二人は見惚れてしまった。
恥ずかしい恰好を春日たちに晒した彼は、開いていた前をパッとかき寄せると、おもむろに歩き出した。
そして、眼前を通り過ぎる際に、思わせぶりな目配せをくれて……。
その淫蕩な目つきにたまらなくなった春日と岡本は、一目散に彼の後を追ったのだった。
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