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1章「出会い」

降りしきる雨は一向に止む気配はなく、父さんが姿を消してから9時間が経った。 元々明るくなかった空が更に暗くなると、公園に設置されている外灯に灯りが灯り始める。 時刻は午後6時を回っていて、いつもなら学校で提出された宿題を終わらせている時間帯だ。 なぜ、今日は外で待つのだろう? そんな疑問がふと浮かんだ。 心配性の父さんの事だから、小学生の子供を外で雨の中待たせるなんて事はしないはず。 だったら今日に限ってなんで? 分からない疑問ばかりが俺の頭をぐるぐるとかけ巡る。 「寒い…父さんまだかなぁ」 冷えきった手で傘をしっかりと握りながら小さく呟いたその声が、やけに大きく聞こえ、更に俺を孤独にさせる。 …寒い… 季節はもう11月後半。 雪こそは降っていないが冬は冬。 日中はまだ大丈夫でも、夕方になるとぐっと気温は下がるため、ロングTシャツに薄手のジャンパーだけではさすがに寒い。 雨が降っているせいもあって体は濡れ、寒さは倍増している。 既に感覚がなくなってきた手は真っ赤で、片方の手を口元に近付けると息を吹きかける。 片方の手を温め終わると次は傘を持っていた手を温めた。 だがいくら繰り返しても手はすぐに冷たさを取り戻し、暖まることはなかった。 「父さん…っかあ、さん…」 母さんが死んでから一度も言葉にしなかった母親を呼んでしまうほどに俺は限界に近かった。 心の中で何度も何度も呼んだ母さんの名前。 今まで声に出してなかった『母さん』という言葉の重みは凄まじく、声に出した瞬間ふと自分の中の何かが切れた様に不安が押し寄せ、涙が溢れてきた。 「おまえっ!こんな雨の中何やってんだッ!」 ふと聞こえた怒鳴り声に驚き、びくっと体が跳ねる。 声のした方に顔を向けると、漆黒の髪色をした少年が色褪せたコンクリートに溜まった雨水を踏みながら慌てて走ってくるのが視界に映った。 自分よりも、いくつか年上だと見てわかる少年はグレーのYシャツに黒のネクタイを緩めてつけており、真っ黒の膝丈まであるコートを羽織っていた。 黒のスラックスには、走った時に跳ね返ってきたと思われる水の染みがいくつも付いている。 少年は、大人用にしては小さく、小学生の俺に比べると少しだけ大きめの革靴を履いていた。 「だれ…?」 いきなり現れた自分よりも年上の少年をじっと見上げる。 「俺は久堂龍司。お前は?」 「おれ…月嶋湊…」 息を切らす少年、龍司をじっと見上げながら名乗ると、吸い寄せられそうなほど綺麗な黒曜石の様な瞳に息を呑んだ。 綺麗な目… 目が離せない… 「湊。このままじゃ風邪引くから…これ着てろ」 龍司から目を逸らすことができないでいる俺の体に暖かい何かが覆いかぶさり、それが龍司の身に着けていたコートだと気付くのに少しだけ時間がかかった。 「あ、ありがとう!」 龍司がかけてくれたコートは冷えきった俺の体を温めるには十分な程暖かく、ついさっきまでぽっかりと空いていた穴を埋める様な感覚さえ覚えた俺は、精一杯の笑顔で笑った。 「―っ」 「…?どうしたの久堂くん?」 目を開き、固まってしまった龍司を見上げると俺は首を傾げた。 「…いや、なんでもない。それとその久堂くんってやめてくれ。普通に名前を呼び捨てで構わない。」 「えっ…でも、年上だし。」 「そんなの気にしないから名前で呼んでくれ。苗字で呼ばれた事ないし、なにより苗字呼びは距離を感じるから好きじゃないんだ。」 「そっか。うん、わかった龍司」 初対面だと言うのに、いきなり呼び捨てでいいのかと少し困惑したが、本人がいいと言っているのならいいかと自分を納得させ、首を縦に振る。     

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