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「そんな事よりお前。こんな雨の中、こんな所で何をしていたんだ?」 目の前に立っていた龍司が、俺の座っていたベンチの隣をちらりと見ると、傘を持ちかえてゆっくりと腰を下ろした。 ベンチには屋根がない。 俺が座っていた場所以外はびしょ濡れで、座った途端雨水がズボンに染み込んだようだ。 一瞬だけ眉間に皺を寄せた龍司は、俺の顔を覗き込みながら訊ねてきた。 「うん…あのね。父さんを待っているんだ…」 「こんな土砂降りの中でか…?いつから待っているんだ?」 「もう、ずーっと前…かな」 本当のことを言えば、父さんが会社に出かける時だから朝の9時位から待っているんだと思う。 でも、あの時の実際の時間が本当にその時間帯だったのか、そして今現在の時間が父さんを見送った日の夕方なのか…それすらも曖昧な程、俺には長い時間に感じた。 自嘲気味に笑った俺は、持っていた傘を握ると隣に座っている龍司に笑顔を向ける。 てっきり笑って返してくれるかと思って見た先の龍司の表情には一切の笑みはなく、代わりに泣きそうな程歪んだ表情があった。 ――なんで龍司がそんなに辛そうな顔するの? 何も言葉を発しようとしない龍司の辛そうな表情に、笑っている自分が馬鹿みたいに思え、目を逸らしてしまう。 降り続く雨は、冷たさを増し容赦なく俺と龍司を濡らしていく。 龍司のコートのおかげで少しだけ温まった体も長くは続かず、すぐに冷たさを取り戻してしまっていた。 どの位経っただろうか、漸く龍司が話し始める。 「そうか…。取りあえずいつまでもこんな所にいたら湊が風邪引く。ここから俺の家が近いから来るといい」 「えっ」 思ってもいなかった言葉に俺は驚いた。 でも、ここで俺が帰ってしまったら… もし、父さんが帰ってきてこの公園に俺がいなかったら… かけがえのない大切な存在だった母さんがいなくなって、俺もいなくなったら父さんはどうなってしまうんだろう。 真っ先に浮かんだのは、父さんの事だった。 父さんは俺に、”ここで待ってて”と言った。 だから絶対ここに帰ってくるはず。 それなのに俺が…母さんだけじゃなくて俺までいなくなったら、父さんは今度こそ1人になってしまう。 ふ、と脳裏に1人で佇む父さんの姿が浮かび、静かに首を横に振った。 「無理だよ…。父さんの帰りを待たなきゃ。俺もいなくなったら父さんは本当に1人になっちゃう。…だから俺はここにいなきゃ。ここで父さんを待っていなきゃ」 傘を握りしめ、絞り出す様な声で言うと視線を手元に落とした。 「湊…でもな?このままここにいたら本当に風邪引いてしまう。湊が病気にでもなって倒れたら、それこそお父さんが心配するぞ?」 「…っ!でもっ!!」 でも…。 「っ…」 龍司の言う通り、俺が倒れたら父さんに迷惑かけちゃうし、心配させちゃう…。 それは嫌だ。 でも、龍司の家に行ったら父さんとの約束が…。 どうしたらいいのか分からず俺は唇を噛みしめる。

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