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「でも…」
「湊、俺の家からこの公園全体を見渡す事が出来る。だから、俺の家からお父さんがいつ帰って来てもすぐ出られる様に見ていればいい。そしたらお父さんが帰ってきても、すぐこの公園に来る事が出来る。そしたら問題はないだろ?」
龍司が俺の頭を優しく撫でる。
俺よりも大きくて暖かい手と龍司の言葉に、不思議と安堵した気がした。
「うんっ!わかった!じゃあ父さんが戻ってくるまで、龍司のお家で待たせてもらうね!」
「あぁ」
ここにいて風邪をひいて、父さんを困らせるのなら、龍司の家で父さんが帰ってくるまで公園を見ていれば問題はない。
ほっとしたような表情で龍司が頷いた。
「取りあえず、いつまでもこんな所にいたら本当に風邪引いてしまう。だから早く俺の家に向かおう」
立ち上がった龍司のズボンは公園に来た時よりも更に雨水を吸い込み、びしょ濡れになっていた。
身に着けていたグレーのシャツも、傘から肩先が少しはみ出していたようで濡れてしまったようだ。
言いようのない罪悪感が込上げてくる。
「龍司、ごめんなさい…。おれのせいで龍司までこんなにびしょ濡れになっちゃって…」
俺がここにいたせいで龍司まで…
「俺は大丈夫だ」
困ったように視線を落とした俺の手は、暖かい龍司の手で、しっかりと握りしめられる。
「っ!」
そのまま握られた手を引かれると、龍司の胸元に抱き寄せられた。
「湊、俺は大丈夫だ。俺は風邪なんて引かない…だから心配するな。湊は自分の事をもっと気にした方がいい」
龍司は抱きしめていた手に力を入れると静かに言った。
背中に回された手が優しくて、不思議と落ち着いていく気がした。
「…うん…」
なんでだろう。
龍司とは今日初めて会ったはずなのに、すごく安心する。
ねぇ、龍司
どうしてこんなにも、あなたの腕の中は安心できるのかな?
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